神経細胞内のカルシウムイオンの動きを解明 パイプラインおよび貯蔵庫としての細胞内小器官小胞体


二種類のシナプス入力に伴うカルシウムイオン(Ca2+)の流れ
(左)シナプス入力に伴い生じた低濃度領域に、周囲からCa2+が拡散することで補充される。(右)また別のシナプス入力においては、小胞体上のCa2+ポンプにより、細胞質からCa2+が取り込まれ、それが蓄積され一定時間維持される。
© 2015 東京大学 飯野研究室
東京大学大学院医学系研究科の飯野正光教授と大久保洋平講師らの研究グループは、代表的な細胞内の情報伝達物質であるカルシウムイオンが、細胞内小器官である小胞体の内部において移動/蓄積される様子を可視化することに成功しました。本研究で確立した可視化技術が、疾患機序の解明や治療薬開発へ応用されることが期待されます。
カルシウムイオンは、筋肉の収縮から記憶・学習に至る様々な機能の制御に関与しています。カルシウムイオンの主要な供給源として、小胞体が挙げられます。小胞体は細胞内に細い管状のネットワークを張り巡らせています。小胞体内部には高濃度のカルシウムイオンが貯蔵されており、細胞外からの刺激に応じて放出されます。しかしこれまで小胞体内部のカルシウムイオンの動きを解析する手法が乏しく、不明な点が多く残されていました。
そこで本研究グループは、小胞体内部のカルシウムイオンのみを検出し可視化するための蛍光プローブであるG-CEPIA1erを新規に開発し、それを脳内の神経細胞に用いました。蛍光画像の解析により、シナプス入力に伴いカルシウムイオンが局所で枯渇し、その後速やかに周囲からの拡散により補充されることが明らかとなりました。また別種のシナプス入力に対しては、細胞外から流入したカルシウムイオンが小胞体に一定時間蓄積され加算されることがわかりました。以上より、小胞体のパイプラインおよび揮発性メモリとしての機能を通じて、神経細胞が入力に対して反応することが明らかになりました。
「細胞内の情報伝達の根幹であるカルシウムイオンの制御機構の基盤を明らかにすることは、細胞機能の基本的な理解に留まらず、疾患の機序解明に繋がる可能性があります」と大久保講師は話します。「神経変性疾患では、小胞体を含めた細胞内カルシウムの恒常性が破綻している可能性が示唆されています」。
論文情報
Visualization of Ca2+ filling mechanisms upon synaptic inputs in the endoplasmic reticulum of cerebellar Purkinje cells", The Journal of Neuroscience 35(48) 15837-15846: 2015/12/2 (Japan time), doi:10.1523/JNEUROSCI.3487-15.2015.
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