成人T細胞白血病に対する新たな治療戦略 T細胞に蓄積したエピゲノム異常を標的に
東京大学大学院新領域創成科学研究科の渡邉俊樹教授と山岸誠特任助教らの研究グループは、成人T細胞白血病(ATL)細胞で見られる異常な遺伝子発現の背景に大規模なエピゲノム異常があることを突き止めました。そして、新たに開発した薬剤がこのエピゲノム異常を回復させる新たな治療薬として有望であることを示しました。
成人T細胞白血病は日本人に100万人以上の感染者(キャリア)がいるヒトT細胞性白血病ウイルス1型(HTLV-1)によって引き起こされる重篤な白血病で、発症予防法や有効な治療法は確立しておらず、有効な治療薬の開発が望まれています。
今回研究グループは、成人T細胞白血病の細胞において、EZH1/2と呼ばれる酵素群の異常により、DNAに巻き付いているヒストンタンパク質の異常メチル化が白血病細胞の半数の遺伝子上で蓄積していることを見出しました。また、このエピゲノム異常が腫瘍細胞に特徴的な遺伝子発現パターンの正体であることを突き止めました。さらに、EZH1とEZH2の機能を同時に阻害することのできる新しい化合物を開発しました。この化合物は、白血病細胞にヒストン上に蓄積する異常なメチル化を消去し、非常に高い感度と選択性によって成人T細胞白血病細胞とHTLV-1に感染した細胞のみを死滅させることを見出しました。
「成人T細胞白血病という白血病を発見し、その原因ウイルスとしてヒトで初めてのレトロウイルスを発見するなど、日本人研究者はこの領域での研究の進歩に多大な貢献をしてきました」と渡邉教授は話します。「今回の成果は、日本人の多くの患者さんと研究者が長い期間にわたって協力した賜物です。臨床医学と基礎研究の両方に、国際的に大きな貢献となる、非常に重要な成果であると考えています」と続けます。
論文情報
Polycomb-Dependent Epigenetic Landscape in Adult T Cell Leukemia (ATL); Providing Proof of Concept for Targeting EZH1/2 to Selectively Eliminate the HTLV-1 Infected Population", American Society of Hematology Annual Meeting: 2015/12/8 (Japan time)
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