月の満ち欠けがウシの出産に影響を与える ホルスタインの出産は満月に近づく頃に増える
東京大学大学院農学生命科学研究科の米澤智洋准教授らの研究グループは、満月の頃に出産率が高まるという俗説が乳牛にはあてはまることを見出しました。
月の満ち欠け(月齢)と人の出産数との関係があるのかないのか、繰り返し調べられてきましたが、これまでの研究で明確な答えは出ていません。
米澤智洋准教授は次のように説明します。「月齢とヒトの出産の関係について明確な答えが得られないのは、社会的環境、母体の栄養状態、遺伝要因などの様々な要素が複雑に影響を及ぼしているから、月齢の影響を見えにくくしているかもしれません。ウシのデータを用いれば、これらの影響をかなり取り除けます。」
研究グループは今回、北海道の農場で同じ条件で育てられている、遺伝的近交度の高いホルスタインを用いて出産の時期を分析しました。2011年9月から2013年8月の3年間に自然分娩したウシ(誘発分娩を除く)428のケースにおいて、それぞれの出産がどの月齢で行われたのかを調べました。
その結果、ウシの出産数が満月前から満月にかけて多くなることが統計的に見出されました。また、この傾向は初めてお産を経験する初産牛に比べて、複数回のお産を経験した経産牛で顕著であることがわかりました。
米澤准教授は次のように話します。「私たち獣医はいつも、人間で調べることが難しい問題を、家畜で調べられないかと考えるようにしています。今回の研究はこうした手法を実践した好例です。しかし、明確な結論を出す前に、より多くのサンプルを使って今回の研究結果を裏打ちしていく必要があります。また、今回の研究結果がそのまま人間の出産に当てはまるとは限りませんし、なぜウシの出産が満月近くなると増えるのか理由もまだはっきりしていません。更なる研究を重ねることで、やがては人間の出産にも当てはまるような結果が得られるのではないかと期待しています。」
論文情報
Lunar cycle influences spontaneous delivery in cows", PLOS ONE Online Edition: 2016/09/01 (Japan time), doi:10.1371/journal.pone.0161735.
論文へのリンク(掲載誌、UTokyo Repository)