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3Dプリンタで空間に広がる物理量を可視化 分子内の電子密度の分布を透明な樹脂の中に描写

掲載日:2017年1月27日

©  2017 山崎淳樹脂でできた模型の大きさは5cm角。赤い点が電子の分布密度(電子雲)を示す。模型の下半分はボールとスティックとで原子と原子間の結合を表す分子模型に電子雲を重ねて描写している。電子雲はそれぞれの炭素の原子核の周囲に同様の状態に分散していることが理解できる。

3Dプリンタで透明の樹脂中に描写したフラーレン分子(C60)の電子分布密度
樹脂でできた模型の大きさは5cm角。赤い点が電子の分布密度(電子雲)を示す。模型の下半分はボールとスティックとで原子と原子間の結合を表す分子模型に電子雲を重ねて描写している。電子雲はそれぞれの炭素の原子核の周囲に同様の状態に分散していることが理解できる。
© 2017 山崎淳

東京大学物性研究所の山崎淳技術専門職員らの研究グループは、空間に分布する物理量を、3Dプリンタで出力できるデータに変換するプログラムを開発しました。このソフトウエアで得られたデータをインクジェット型の3Dプリンタに入力し、例としてサッカーボール型のフラーレン分子を構成する炭素原子の間の電子密度分布を透明な樹脂中に描写することに成功しました。

従来、分子内における原子の配置を3次元的に表現する分子模型は、原子を球体、原子間の結合を棒の形状で示すボールスティックタイプが主として用いられていました。この方法では、原子内の電子がどのように広がっているかという密度分布と分子の機能の関係を理解することが困難でした。

今回、研究グループは、フラーレン分子(C60)を構成する炭素原子間の結合を担う電子密度分布(電子雲)のデータを、ドットデータ(点で表されたデータ)に変換するコンピュータプログラムの開発に成功しました。このドットデータをインクジェット型3Dプリンタに入力することで、透明な樹脂の中に電子雲を描写した分子模型を制作しました。

この分子模型により、電子密度が分子中にどのように分布しているかが容易に理解できるため、電子が関与する新しい機能をもった分子の開発等に役立てられると期待されます。今回開発したプログラムを用いることによって、電子密度のほかに雲、銀河、建物や車の周囲の気流などを描写することも可能であり、幅広い領域での応用が期待されます。

「ボールスティックタイプの分子模型だと、苦労してスパコンで計算した電子密度が表現できないという課題がありましたが、今回の技術で解決できました」と山崎技術専門職員は話します。「透明の樹脂の中に目に見えない物理量をどうやって描写するか考えることはとても楽しいです」と続けます。

「自分の作ったプログラムで美しい電子雲アートが完成したときは感動しました」と株式会社クロスアビリティの長代氏は話します。「電子密度のシミュレーション結果をこれまでの2次元的な画像から3Dプリンタを用いて3次元的に表せるようになったので、新しいサイエンスの発展にこの表現方法を役立てるようにしたい」と今後への意気込みを続けます。

本成果は、株式会社クロスアビリティの長代新治氏らとの共同研究によって得られたものです。

プレスリリース

論文情報

Jun Yamazaki, Hikaru Kouta, Shinji Nagashiro, Norio Senda and Ryota Koga, "Development of STL files generation codes for molecular modeling incorporated with electron clouds using 3D-printer", Proceedings of the 30th symposium of Molecular Simulation Society of Japan p46-47.

関連リンク

物性研究所

物性研究所 計算物質科学研究センター

株式会社クロスアビリティ

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