収穫の時期を自由自在に決められる新しいイネ系統を作出 市販の特定農薬でイネの開花時期を制御する


農薬によって開花が誘導される新しいイネの系統
この新しいイネ系統は、市販の農薬として知られているオリゼメートやルーチン(イネいもち病菌予防のための農薬、抵抗性誘導剤)の散布に反応して開花します。農薬を撒いていないイネ(左)は開花しませんが、農薬を撒くと35日後に開花しました(右)。
© 2017 井澤 毅
植物の開花は、気温や日長といった栽培環境によって決まるため、農家が収穫の時期を人為的に前もって決めることはできません。これまで、小さな花をつけるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)と呼ばれる植物の開花を人為的に操ることに成功していますが、穀物での成功例は未だに報告されていません。
研究グループは、オリゼメートやルーチン(イネいもち病菌予防のための農薬、抵抗性誘導剤)として知られている市販の農薬をまくと、その後40-45日で開花する新しいイネの系統を開発しました。まず、研究グループは日が短くなると植物の先端に花や芽を作れなくなるようなイネの系統を作りました。この系統は、花や芽の形成を抑えるような遺伝子(フロリゲン遺伝子)の働きを、Ghd7と呼ばれる遺伝子をイネの中で多量に発現させることによって作り出しました。次に、研究グループは、フロリゲン遺伝子Hd3aを特定の抵抗性誘導剤にのみ活性化するように改変しました。そして、茨城県つくば市の野外環境で、新しいイネ系統を鉢植えで栽培して、抵抗誘導剤を撒いたところ、約45日後に開花することを確認しました。また、系統によっては、2年間にわたる実験期間中でも、農薬を投与した場合のみ開花が繰り返し観察されました。
植物の花開にかかわる分子メカニズムを20年以上にわたって研究してきた井澤教授は、特定の農薬(抵抗性誘導剤)に反応してフロリゲン遺伝子Hd3aを活性化させる遺伝子のスイッチ(プロモーター)が、多数あるだろうと思いつきました。「トランスクリプトーム解析という、遺伝子の活性が調べられる方法を用いた結果、オリゼメートやルーチンに反応するような候補となるプロモーターが12個みつかりました。これらのプロモーターを調べたところ、思っていたより難しく、12個のうち、たった一つのプロモーターしか、フロリゲン遺伝子Hd3aの改変には有効ではありませんでした」。
「現在は、遺伝子セットを1つしかもたないヘテロ接合体と呼ばれるイネの開花時期を人為的に操作することにしか成功していないので、今回開発したイネ系統の開花メカニズムについてさらに理解を深めたいと考えています」、と井澤教授は続けます。
米農家が米を収穫する時期を自分たちで決められるようになるためには、作出したイネ系統が田んぼやその他の環境条件でも同じように、農薬の散布後に開花する条件を模索していく必要があり、今後の展開が期待されます。
論文情報
Synthetic control of flowering in rice independent of the cultivation environment", Nature Plants Online Edition: 2017/03/28 (Japan time), doi:10.1038/nplants.2017.39.
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