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サイエンスへの招待/沖野郷子の海洋底地球科学|広報誌「淡青」34号より

掲載日:2017年7月27日

サイエンスの招待
さあ、みんなで海へ出よう ――海洋底地球科学

現在では遠い星々の表面も精細な画像で見ることができます。でも、地球は別。実は未精査の部分も多々あります。それが海洋底。大量の海水の影響で、観測が非常に難しいのです。幾多の困難にめげず、世界の大海原で海洋底の多様な姿を探ってきた研究者が、学際研究と船酔いの現場から、海の浪漫に溢れた地球科学の世界へ誘います。
沖野郷子 書影 沖野郷子 /文
大気海洋研究所教授
http://ofgs.aori.u-tokyo.ac.jp/~okino/

沖野先生の著書(共著)『海洋底地球科学』
(東京大学出版会/2016年5月刊3800円+税)
 

 日本で大きな地震が起こると、たいてい地震研究所の先生がテレビに登場して「これは太平洋プレートが日本の下に沈み込んで云々」といった説明をされます。そのおかげか、どうやら日本はプレートが沈み込む場所で、そのため地震や火山が多いらしい、という認識はかなり広まっているようです。研究者をみても、日本は沈み込み帯の研究をするには絶好の場所という地の利と、防災面での強い社会的要請があるので、沈み込み帯とその関連現象や構造を研究対象とする人が多数派です。でも、その沈み込んでいるプレートはいったいどこで生まれたのでしょうか? どこか遠く?

ETOPO1

海底はダイナミックな地質現象が起こっている場所で、陸よりもはるかに起伏に富んだ世界です(データ:ETOPO1)。

 地球の表面がいくつかの硬い板(プレート)に分かれていて、それらがお互いに運動しているというプレートテクトニクスの考え方は、1960年代後半に成立しました。この考え方は、地球深部の現象や劇的な変動について説明しきれないという点はあるにせよ、現在でも地球科学の基本となっています。プレートテクトニクスに基づくと、隣り合うプレートがお互いに離れていく場所では、その隙間を埋めるようにプレートの下にある物質(岩石)が上昇してきて、新しいプレートをつくると説明されます。上昇してきた岩石の一部は溶けてマグマになり、火山ができます。火山から流れる溶岩が新しい海底となるのです。このような火山は中央海嶺と呼ばれ、惑星地球の火山活動の8割を担っています。

 「新しい海底が生まれる」というイメージはワクワクしませんか? 私の研究の基本テーマは、どうやって海底が生まれ、変化し、多様な海底の姿ができるのか、です。中央海嶺の研究には、観測から試料分析、数値実験まで様々なアプローチがありますが、私自身は研究船や有人・無人の深海探査機を使って、地形や表層地質構造、地磁気、重力などを観測しています。しかし! 中央海嶺は日本からは本当に遠いのです。欧米の研究者が比較的近距離にある大西洋と太平洋の中央海嶺で研究を展開したため、日本の先輩研究者は、「インド洋はまだ手つかず、欧米からより日本から行くほうが近くて先手が打てる」と90年代にインド洋の調査に乗り出しました。私がはじめてインド洋の中央海嶺に行ったのは2000年ですが、その後何度かの航海を重ね、潜水船で潜り、今や一部は私の庭(?)の気持ちです。この庭で、火山活動と断層活動の関係を主眼に研究を行っています。

 遠洋での航海は時間も費用もかかり、一人でふらっと行くというわけにはいきません。数年かけて研究チームを編成し、計画を練り、予算と船の両方のプロポーザルを通し、ようやく観測は実現します。中央海嶺には熱水系と呼ばれる温泉が湧いている場所があり、生物や化学の研究者も非常に興味を持っています。もしこれが陸上であれば、分野の違う研究者はそれぞれ車で勝手に調査に行き、せいぜい研究会で意見を交わす程度でしょう。しかし、海の現場では、実際に同じ船に乗り、すぐ隣で作業し、食事(と酒と船酔い)を数週間共にすることになります。ここでの議論や雑談を通して生まれたアイディアがまた次の計画へとつながります。これぞ学際領域の創成、中央海嶺では海底だけでなく新しいサイエンスも生まれています。

 

※本記事は広報誌「淡青」34号の記事から抜粋して掲載しています。PDF版は淡青ページをご覧ください。


インド洋中央海嶺で有人潜水調査船「しんかい6500」から
撮影した真新しい溶岩。枕状の溶岩が積み重なって新しい
海底をつくっています。 ©JAMSTEC
学術研究船「白鳳丸」。
こんなよい天気の日ばかりではありませんが…。
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