矢守航准教授の研究成果が「2025年農業技術10大ニュース」に選定 ――赤色レーザーダイオードが植物の成長を促進 LEDを超える「次世代の光源」の効果を世界で初めて確認――

農林水産省が選定する「2025年農業技術10大ニュース」に、東京大学大学院農学生命科学研究科 矢守航准教授の研究成果が選定されました。
農林水産省は、2025年の1年間に公表された農林水産分野の研究成果について、その先進性および社会的関心の高さを基準に、農業技術クラブ(農業関係専門紙・誌など約30社)の会員投票により、10件を「2025年農業技術10大ニュース」として選定しました。このたび、東京大学大学院農学生命科学研究科 矢守航准教授らの研究グループによる、赤色レーザーダイオード(LD)を用いた植物成長促進に関する研究成果が、その一つとして選ばれました。
本研究では、植物の人工栽培光源として広く用いられてきた発光ダイオード(LED)に代わる新たな光源として、赤色レーザーダイオード(LD)に着目しました。LEDは半値幅20~50 nm程度の比較的広い波長帯で発光する一方、LDは半値幅1~5 nm以下という極めて狭い波長帯で発光する特性を有しています。本研究では、このLDの狭波長帯光を、植物の主要な光合成色素であるクロロフィルの吸収ピークに精密に一致させることで、光合成における光エネルギー変換効率を最大化できることを明確に示しました。
タバコ、シロイヌナズナ、レタスの3種を対象とした比較実験の結果、いずれの植物においても、LD照射により光合成活性、バイオマス量、葉面積などの複数の成長指標が、LED照射区を有意に上回りました。さらに、LED照射条件下では長時間の連続照射によって葉の黄化や光阻害といったストレス症状が認められたのに対し、LD照射ではそれらの症状がほとんど確認されず、植物にとってより効率的かつ低ストレスな光環境を提供できることも明らかになりました。
以上の結果から、赤色レーザーダイオードは、従来のLEDに代わる次世代の高効率・高精度な植物栽培用光源として、植物工場や都市型農業、さらには宇宙空間などの閉鎖型環境における作物生産に革新をもたらす技術であることが示されました。本成果は、人工光源を基盤とした持続的農業の実現に向けた重要なマイルストーンであり、今後の応用展開が強く期待されます。


