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Kavli IPMU一般講演会「宇宙×世界」を実施 ー哲学と科学の交流

掲載日:2018年7月30日

2018年6月10日(日)、カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)主催一般講演会「宇宙×世界」を日本科学未来館(お台場)の未来館ホールで開催しました。

この講演会は、数学と物理学と天文学という基礎科学の領域から研究者が集まり原初的な問い「宇宙の謎に迫る」ことを目的に研究を進めるKavli IPMUが、根源を問うという点を同じくする哲学との交流を進める活動の一環として行うものです。かつて「2つの異なる文化」とも表現された科学と哲学ですが、その最先端にいる研究者が提示するピクチャーは互いに言及しうるものであり、現代が再び両者の対話を要請する時代となった可能性を示唆するイベントとなりました。

当日は、まず野村泰紀Kavli IPMU主任研究者/UC Berkley教授による「我々の宇宙を超えて」と題した講演、続いてマルクス・ガブリエル ボン大学教授による「宇宙・世界・実在」と題した講演、そして2名による対談「宇宙×世界」、さらに別室に移っての講師を囲んでの懇談会、という盛りだくさんの内容が行われました。台風による荒れ模様の天候にも関わらず会場はほぼ満席で、行われたストリーミング配信の視聴数と合わせると約900名の参加となる盛り上がりでした。

野村主任研究者による講演は、科学とは何かを深く考える講演となりました。
我々の宇宙は、還元主義により極めて正確に記述できているだけでなく、実験で確かめられています。その結果は一見、宇宙は無限にどこまでも一様に続くものという事を意味しているように思われます。しかし、マルチバース宇宙論はそれとは異なる描像を提示します。そしてそれは現代物理学の理論の帰結として示唆されます。
例えば超弦理論の理論上生じてしまう余剰次元、インフレーション理論において泡の相転移が終わらないことは、古くから理論物理学の頭痛の種でした。しかし今ではそれらの帰結の1つとしてマルチバースが示唆される事が分かり、またそれがダークエネルギーの問題を解決する事が分かってきました。また、マルチバース宇宙論は我々の宇宙の曲率が負であるという予言をします。今はまだ精度が足りませんが、近い将来測定精度が上がり、曲率が負でないとわかればマルチバース宇宙論も棄却されます。棄却されうるということもまた、マルチバース宇宙論がサイエンスである重要な証であると述べました。
さらに最近の野村教授の研究の紹介として量子的マルチバースという理論を説明する上で、スティーブン・ホーキング氏のブラックホールのパラドクスの解とその宇宙論への影響が取り上げられました。またマルチバースで得た概念変更をベースに、科学における時間概念、空間概念を再定義する試みが紹介されました。さらに今後予想される宇宙の歩みを紹介し、人類の歴史は概念変更の歴史を辿ったとして締めくくりました。

続いてガブリエル教授による講演では、まず先の野村教授の描写するマルチバースの考えと、自身の描写する哲学的な論理的空間が、非常に近しい事は単なる偶然ではないと応答がありました。本論では消極的な提題が先にあげられた上で続いて積極的な提題が提示されました。
 消極的な提題は「世界は存在しない」というものです。ここで三つの世界概念が検討されます。(1)世界とは「もの」の総体である。これは何らかの理論にたよることなく「もの」を個別化することができないという理由により退けられます。(2)世界とは「もの」ではなく事実の総体である。ここで事実の総体はすべての集合の集合のようなものとなり、これは数学的に成立しないことが証明されているため、この世界概念も退けられます。(3)世界とはすべての領域を含んだ領域である。個々の領域は何らかのルール、すなわち「意味」によって規定づけられているとされます。なお、すべての領域を含んだ領域を規定している意味として「存在」があげられますが、ここで存在という概念を持ち出すことは何ら問題の解決になっていないため、この世界概念もまた退けられます。
 そこでガブリエル教授は積極的な提題として、世界ないし実在とは意味の場が局所的に重なっている網目構造であって、それ以外にすべての文脈の文脈という包括的な全体というものがあるのではない、という考え方を提示します。ここでは我々は局所的に重なっている構造しか知ることができません。また、全体というものが存在するという考えの根幹にある、3000年来のアリストテレスの論理学も棄却すべきではないかという提案で締めくくられました。

対談では、主に物理法則や人間の営みについて、還元主義的な視点と、決定論的な視点から議論がなされました。

最後に、眺めの良い別室で行われた講師を囲む懇談会も非常に盛り上がりをみせ、2名の講師は来場者にぐるりと囲まれ尽きることのない質問に答えていました。

来場者によるアンケート結果では、「宇宙に関する奥深い話とガブリエル先生の哲学的な視点からの話に関連性が見い出されている部分が感じられてとても面白かった。内容全体はとても難しいと感じることも多かったが、とても楽しめた。先生方との距離感もとても良かった」「大変良い対談でした」など多くの感想が寄せられ、最先端の科学と哲学が交流する本講演会を難しい点も含めて楽しまれた様子が伺えました。

関連書籍

野村泰紀 (東京都: 星海社、2017年) ISBN: 978-4-06-138616-7

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