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遺伝学的検査システムを活用した若年発症糖尿病の新規病因解明 糖尿病の精密医療につながる可能性

掲載日:2020年10月5日

遺伝学的検査システムを活用した若年発症糖尿病の遺伝子解析
糖尿病関連遺伝子領域のターゲットリシークエンスのデータから、機能に影響を及ぼすバリアントを絞り込みました。前記の遺伝学的検査システムを活用してバリアントの優先順位付けを行い、疾患原因と考えられるバリアントを探索しました。
© 2020 細江 隼

 

東京大学の門脇孝名誉教授(現・国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長)、東京大学大学院医学系研究科の山内敏正教授、庄嶋伸浩特任准教授、細江隼助教(発表当時)、東京医科歯科大学の宮冬樹講師、山王病院の門脇弘子部長、ライフサイエンス統合データベースセンターの藤原豊史特任助教らの研究グループは、若年発症で単一遺伝子異常による糖尿病または高度インスリン抵抗性が疑われる症例に対して、次世代シークエンサーと表現型を用いたバイオインフォマティクス解析を組み合わせた遺伝学的検査システムを構築し、実症例10例以上を対象に解析を行い、複数症例で疾患原因と考えられるバリアントを同定しました。

糖尿病の大部分は1型・2型糖尿病ですが、単一遺伝子異常によって糖尿病を発症する場合があり、若年発症成人型糖尿病(MODY)など複数のサブタイプが知られています。これらのサブタイプの臨床像は1型・2型糖尿病と一部共通し、正確に診断されていないケースは多いとされています。

研究グループは、次世代シークエンサーと表現型を用いたバイオインフォマティクス解析を組み合わせた遺伝学的検査システムを、研究の補助的な解析ツールとして活用しました。単一遺伝子異常による糖尿病または高度インスリン抵抗性が疑われる患者における糖尿病関連遺伝子領域のシークエンスデータから、機能に影響を及ぼすバリアントを絞り込み、前記の遺伝学的検査システムを活用したバリアントの優先順位付けを行った上で、バリアントの病的意義を検討したところ、複数症例で疾患原因と考えられるバリアントが同定されました。バリアントの多くは既報の単一遺伝子異常による糖尿病の原因遺伝子領域に存在しましたが、一部症例では2型糖尿病関連遺伝子領域に疾患発症との関連が示唆されるバリアントが同定されました。

これらの結果から、前記の遺伝学的検査システムを活用した包括的な解析は、若年発症糖尿病を早期に診断し、適切な治療を行うために有用な可能性があると期待されます。

「単一遺伝子異常による糖尿病は、様々なサブタイプが存在し、複数の原因遺伝子が知られています。次世代シークエンサーを活用することにより、これらの遺伝子領域を包括的に解析できるようになりました」と細江助教は話します。「次世代シークエンサーの解析では大量のシークエンスデータが得られますが、その中から迅速に疾患の原因となるバリアントを同定することが重要です。本研究で活用した遺伝学的検査システムを用いることにより、効率的かつ迅速な遺伝子解析が可能になることが期待されます」と続けます。

論文情報

Jun Hosoe, Fuyuki Miya, Hiroko Kadowaki, Toyofumi Fujiwara, Nobuhiro Shojima, Toshimasa Yamauchi, Takashi Kadowaki et al., "Clinical usefulness of multigene screening with phenotype-driven bioinformatics analysis for the diagnosis of patients with monogenic diabetes or severe insulin resistance ," Diabetes Research and Clinical Practice: 2020年9月21日, doi:10.1016/j.diabres.2020.108461.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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