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細胞分裂期の中心体の制御機構の解明 染色体分配異常に起因する様々な病気の予防や創薬が期待される

掲載日:2019年3月12日

Cep57-PCNT複合体は中心小体分離と染色体分配を制御する
Cep57-PCNT複合体は中心小体分離と染色体分配を制御する
分裂期の正常細胞では、母・娘中心小体ペアは近接して存在することで、微小管形成の中心として機能し、適切に染色体を分配します。Cep57-PCNT複合体の異常(MVA症候群、MOPDII)では、母・娘中心小体が早期に分離し、ひいては染色体分配異常の原因となることを明らかにしました。
© 2019 Koki Watanabe, Daiju Kitagawa.

東京大学大学院薬学研究科の北川大樹教授、渡辺紘己研究員、高尾大輔助教、伊藤慶(学部四年生)らのグループは、帝京平成大学の高橋美樹子教授と共同で、Cep57-PCNT複合体による分裂期中心体の制御機構と、その破綻によるMVA(多彩異数性モザイク)症候群、MOPDII(小頭症性骨異形成性原発性小人症II型)の発症機構を解明しました。

細胞分裂に伴い、遺伝情報を運ぶ染色体(DNA)が複製されて倍加し、娘細胞に均等に分配されることはよく知られています。このときに染色体を 2 方向に引っ張っているのが、微小管とよばれる繊維状の構造体であり、この微小管形成の中心として働くのが中心体です。この中心体の数や機能に異常が生じると、染色体を適切に分配できず、ゲノム不安定化に起因する癌などの疾患に繋がることが知られています。中心体の構造はその核として機能する2つの母・娘中心小体とそれを取り囲む中心体マトリクス(PCM)から構成されています。細胞分裂前に母中心小体から娘中心小体が複製されますが、形成されたばかりの娘中心小体は細胞分裂の間、母中心小体に近接して存在します。しかしながら、細胞分裂時における母・娘中心小体ペアの結合メカニズムについては未知な部分が多く残っていました。

母・娘中心小体間の結合とゲノム安定性維持に必須な中心体因子複合体(Cep57-PCNT複合体)を発見しました。Cep57、PCNTはそれぞれ多彩異数性モザイク(MVA)症候群とMOPDIIと呼ばれる難病の原因遺伝子として知られていましたが、その発症メカニズムは長らく不明なままでした。Cep57-PCNT複合体に異常が生じると、分裂期前期に母・娘中心小体が早期に分離してしまい、適切な紡錘体が形成されないために、染色体分配異常が高頻度に誘発されることを明らかにしました。さらに、両疾患の患者由来の細胞や遺伝子変異体を用いた解析から、母・娘中心小体間の結合異常が両疾患の発症原因であることを明らかにしました。

本研究成果は、MVA症候群および、MOPDIIの予防や治療のみならず、中心体の異常に起因する様々な病気の原因解明に役立つことが期待されます。

「今回の研究は、細胞内構造を詳細に観察できる超解像度顕微鏡技術の応用と、実際の患者由来の細胞や遺伝子変異体の評価、という2つを組み合わせたことが良い結果につながりました」と北川教授は話します。「今後はMVA症候群、MOPDIIの予防や創薬治療のみならず、中心体の異常に起因する多くの難病の病態解明へとつなげていきたいです。」と続けます。

論文情報

Koki Watanabe, Daisuke Takao, Kei K. Ito, Mikiko Takahashi, Daiju Kitagawa, "The Cep57-pericentrin module organizes PCM expansion and centriole engagement," Nature Communications: 2019年2月25日, doi:10.1038/s41467-019-08862-2.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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