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糖尿病・脂肪性肝炎の新たな発症機序の解明 摂食時の肝臓におけるタンパクの品質管理の意義

掲載日:2019年3月19日

摂食時の肝臓におけるタンパクの品質管理と糖脂質代謝の調節
摂食時の肝臓におけるタンパクの品質管理と糖脂質代謝の調節
食事の際に肝臓ではタンパクの合成が増加し、質の悪いタンパク(変異タンパク)も増えますが、これに対応するためにSdf2l1という分子が誘導され、質の悪いタンパクを分解する働きを果たします。一方で肥満・インスリン抵抗性ではSdf2l1の量が低下しており、そのために質の悪いタンパクが増加し、糖尿病や脂肪性肝炎の原因となることが明らかとなりました。
© 2019 笹子敬洋

東京大学大学院医学系研究科分子糖尿病科学講座の笹子敬洋特任助教、同糖尿病・生活習慣病予防講座の門脇孝特任教授、国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センターの植木浩二郎センター長らのグループは、絶食・摂食で大きく変化する肝臓での小胞体ストレスとそれに対する応答に注目し、Sdf2l1という分子の果たす役割を明らかにしました。

肝臓での代謝は絶食時と摂食時で大きく変化しますが、その生理的意義や調節機構、またその破綻がいかに種々の疾患の病態形成に寄与するかについては、これまで十分解明されていませんでした。

研究グループはまずマウスでの実験から、摂食によって肝臓で小胞体ストレスが一時的に惹起されることを見出しました。また、複数の小胞体ストレス関連遺伝子の中でも特にSdf2l1という遺伝子の発現が大きく上昇していました。Sdf2l1は小胞体ストレスに応答して転写レベルで誘導を受けますが、その発現を低下させると小胞体ストレスが過剰となり、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性や脂肪肝が生じました。また肥満・糖尿病のモデルマウスではSdf2l1の発現誘導が低下していましたが、発現を補充するとインスリン抵抗性や脂肪肝が改善しました。加えてヒトの糖尿病症例の肝臓において、Sdf2l1の発現誘導がインスリン抵抗性や脂肪性肝炎の病期の進行と相関することが示されました。

このことから、摂食に伴う小胞体ストレスに対する適切な応答が重要であると共に、その応答不全が糖尿病・脂肪性肝炎の原因となることが示されました。今後は、Sdf2l1やその発現量が、糖尿病・脂肪性肝炎の治療標的やバイオマーカーとなることが期待されます。

「私たちは普段何気なく物を食べますが、この際に体内では様々な反応が生じます。私たちが注目した肝臓では、小胞体ストレスの原因となる質の悪いタンパクができると共に、その分解を進めるストレス応答が起きることが分かりました。」と笹子特任助教は話します。「この小胞体ストレス応答の仕組みがうまく働かないと、糖尿病の原因となるのに加え、糖尿病に多く合併する脂肪性肝炎の原因にもなることが明らかになりました。元はマウスでの検討から始まった研究ですが、目の前の患者さんの病態解明につながる結果も、得ることができたように思います」と続けます。

論文情報

Takayoshi Sasako, Mitsuru Ohsugi, Naoto Kubota, Shinsuke Itoh, Yukiko Okazaki, Ai Terai, Tetsuya Kubota, Satoshi Yamashita, Kunio Nakatsukasa, Takumi Kamura, Kaito Iwayama, Kumpei Tokuyama, Hiroshi Kiyonari, Yasuhide Furuta, Junji Shibahara, Masashi Fukayama, Kenichiro Enooku, Kazuya Okushin, Takeya Tsutsumi, Ryosuke Tateishi, Kazuyuki Tobe, Hiroshi Asahara, Kazuhiko Koike, Takashi Kadowaki *, and Kohjiro Ueki * (*: corresponding authors)., "Hepatic Sdf2l1 controls feeding-induced ER stress and regulates metabolism," Nature Communications: 2019年2月27日, doi:10.1038/s41467-019-08591-6.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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