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東京大学×日本財団 研究成果の発表 海洋プラスチックごみ対策事業 

掲載日:2022年4月25日

東京大学×日本財団 海洋プラスチックごみ対策事業 研究成果の発表
 
東京大学と日本財団(会長 笹川陽平)は4月19日、世界的に増加し続けている海洋プラスチックごみ(以下、「海洋プラごみ」という。)の問題に関して、科学的知見を充実することを目的として、2019年5月に開始した共同プロジェクトの3年間の研究成果について記者発表会を開催しました。データやエビデンスが特に不足している大きさ1mm以下のマイクロプラスチック、さらに小さいナノサイズのプラスチックの「海域における実態把握」「生体への影響」、そして「海洋プラごみの発生フロー解明と削減管理方策」の3テーマに係る研究成果や、結果から示唆される今後の対策や可能性について発表しました。なお、ここまでの研究成果を踏まえ、さらに実態や影響について解明し、効果的な対策に結び付けていくため、2022年度からさらに3年間、事業を継続することとなりました。
 
<各研究テーマにおける発表内容>
テーマ1:海洋マイクロプラスチックに関する実態把握 
  • マイクロプラスチック存在量の粒径分布は、海面近くの海水と海底の泥の中で異なります。泥の中には、より小さなサイズのものが多いことから、小さなプラスチック粒子が選択的に海水中から除去され、海底に堆積していることが分かりました。
  • 海底に沈む要因は複数想定されますが、動物プランクトンや植物プランクトンなどの作用が影響している可能性があります。プラスチックを誤食した動物プランクトンの糞や死骸が海底に沈降したり、植物プランクトンが出す物質にからめとられて沈降する等の可能性が考えられ、この点については今後も検証していきます。
  • 現場海域(対馬周辺)におけるマイクロプラスチックの採取結果と海流のシミュレーションを組み合わせて、微細プラスチックの動きを推定しました。その結果、島の東側は、西から東に流れる対馬暖流の島影にあたり、流れてきた粒子はそこに発生する渦状の流れに捕えられてより長く滞留することから、シミュレーション結果は、島の東側に劣化が進んだものが多いという観測事実と整合的であることが分かりました。
  • 国内(水産研究・教育機構)に保管されていた、日本周辺から北太平洋における過去約70年分(1949年から2016年)の海水サンプル7,000本の中に含まれていた微細プラスチックを分析した結果、1950年~1980年代まではおよそ10年で10倍というペースで海洋プラスチックごみが増えており、その後も確実に汚染が進行していることが分かりました。また、1950年代から最近まで、長期的に徐々に小型のプラスチック(大きさ5mm以下)の割合が増えてきていることが分かりました。
 
テーマ2:マイクロプラスチックによる生体への影響 
  • 海域によっては、増加したプラスチックの粒子濃度が、生物に炎症などの悪影響を及ぼすレベルに近くなっています。例えば多摩川河口の水棲生物(魚や貝類)には、10μm~300μmのマイクロプラスチックが蓄積していることが確認されました(プロジェクトに参加している東京農工大学の研究グループの成果)。
  • プラスチック以外の汚染源が少ないと想定される離島(沖縄県座間味島および西表島)において、各島でプラスチック汚染の進んだ海岸とそうでない海岸の、生息生物(オカヤドカリ)へのマイクロプラスチックおよびプラスチック関連化学物質(プラスチック製造段階で添加される難燃剤や漂流時に付着した化学物質)の蓄積を調べた結果、前者では後者より蓄積が進んでいることが分かりました。また、蓄積した化学物質は、生物体内での代謝の過程で変化(難燃剤がより有害性の高い物質に変化し、体内に蓄積する。)することが分かり、これについては、室内曝露実験でも確認しました(プロジェクトに参加している東京農工大学の研究グループの成果)。
  • 海洋生物(ムラサキイガイ)に微小なプラスチック粒子を曝露する実験を行った結果、粒子の大きさ(1μm~90μm)によって海洋生物体内の滞留時間が異なることが分かりました。小さい粒子(1μm)は、初期の排出は速い一方、一定量は長くとどまるのに対して、大きめの粒子(90μm)は初期の排出は緩やかながら、いずれすべて排出されることが分かりました。これはプラスチック粒子の大きさによって生物に対する影響が異なる可能性を示しています。
 腸管細胞培養系から、数十nmの微小粒子は血流、一方で数百nmのものはリンパ系(リンパ液を運搬する導管ネットワーク)に入ることが判明しました。体内に取り込まれた後は、免疫系細胞にも取り込まれ、その活性化(免疫細胞が異物と認識して対処しようとする。)を引き起こしますが,プラスチック粒子が分解されないため、抗原提示を介した獲得免疫反応には至らないと考えられます。しかし、長期の継続的な取り込みによる組織の炎症等の可能性については今後のモニタリングが必要と考えられます。 

テーマ3:プラスチックごみ発生フローの解明と削減・管理方策の検討 
  • 消費者の意識に基づいて、身の回りにあふれるプラスチック製品を「いるもの・いらないもの、避けやすいもの・避けにくいもの」で整理し、『削減しやすいもの』『素材変更や代替の促進が可能なもの』『削減しにくいもの・削減不可なもの』等に分類した上で、使用する場合の適切な処理方法を整理しました(プロジェクトに参加している京都大学の研究グループの研究成果)。
  • 国際枠組みや政府・産業界の役割と限界を整理するとともに、一般市民の意識・行動変容等につながる実践的手法が提示され、削減に向けた今後の社会科学的課題が提示されました。
 
フォトセッション
(左から 浅利 美鈴 京都大学准教授、津田 敦 東京大学執行役・副学長、藤井 輝夫 東京大学総長、笹川 陽平 日本財団会長、海野 光行 日本財団常務理事)


研究結果報告
道田 豊 東京大学大気海洋研究所 教授


質疑応答
藤井 輝夫 東京大学総長
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