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東京大学基金寄付者インタビュー第二十三回 先輩から後輩への恩送り 若手運動会OBの想い

掲載日:2022年4月18日

東京大学基金 寄付者インタビュー 第二十三回
先輩から後輩への恩送り 若手運動会OBの想い

小田部幹(こたべ・かん)様
卒業学部(研究科):2016年教養学部学際科学科地理・空間コース卒業
当時の所属部活&役職:運動会ラグビー部 マネジメント担当
現在のご所属:国立大学法人東京大学本部学生支援課
座右の銘:生きてこそ

南谷恵吾(みなみたに・けいご)様
卒業学部(研究科):2015年教育学部教育学研究科比較教育社会学コース卒業
当時の所属部活&役職:運動会応援部吹奏楽団 吹奏楽団責任者
現在のご所属:食品メーカー
座右の銘:運否天賦

宗岡均(むねおか・ひとし)様
卒業学部(研究科):2015年新領域創成科学研究科物質系専攻博士課程修了(博士(科学))
所属部活&役職:漕艇部 主将
現在のご所属:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 助教
座右の銘:今に集中

運動部に入部した経緯、さまざまな喜び、葛藤が詰まった大学時代の思い出。

小田部氏:中学時代に父親の影響でラグビーを始めたのですが、進学した高校にはラグビー部がなく、大学生になったらもう一度やりたいと思っていました。どうせやるのであれば真剣に取り組もうと思い、運動会のラグビー部に入部したのですが、週6日練習があり、とにかくしんどくて、甘く考えていたことに気づかされました(笑)。授業、アルバイト、ラグビー等、どれも真剣にやろうとしたのですが、キャパシティオーバーとなり、どれも中途半端に……。

3年生から始めた就職活動でも特にアピールできるような成果が語れず、あえなく撃沈です。その結果、就職浪人することを決め、1年間留年することにしました。ところが、取らなければいけない授業がほとんどなかったため、逆にラグビーの部活動に集中できるように。最後の秋シーズンでは、一軍であるAチームのメンバーとして4試合に出場できました。「小田部―、行けー!!」とチームメンバーが応援してくれて、嬉しかったですね。ただし、すごい選手が揃っていましたから、その4試合以外はほぼBチームに常駐するヒラ部員だったのですが(笑)。そして現在は、東大の事務職員として働かせてもらっております。駒場の学生支援の窓口にはよく伺って、とてもお世話になりました。その経験が入職動機の一つになったと思います。


4年秋初めてAチームでのスタメン出場を果たした対抗戦(右側の黒色のヘッドキャップでタックルをしているのが小田部氏)

南谷氏:なるほど。私の場合は「大学に入ったら、何か新しいことをしたい」と考えていました。サークル勧誘活動をしている「テント列」を見に行ったときに初めて応援部の存在を知り、「この部活はなんだ?どうして学ランを着ているんだ?」と驚いたのを覚えています(笑)。ゆえに当初は少し気持ちが引き気味だったのですが、先輩部員に詳しく話を聞いてみると、運動部の応援や吹奏楽、マーチングをする部であることがわかり、興味がわきました。その後、野球の応援を見学させてもらったのですが、先輩部員の方々の様子がとても楽しそうで。もともと音楽が好きでしたし、吹奏楽なら楽器の演奏を学べ、新しいことが始められるじゃないかと考え入部を決めました。「東大応援部」という名前の響きもかっこよかったですし(笑)。

卒業までの4年間は、まさに“部活漬け”の日々でした。平日は授業を終えた後に練習し、週末は運動部の応援ということも多かったため、正直、頑張ろうと思っていた勉強も人並み程度でなんとか。応援部は他の運動部とは違って、トーナメントで優勝するなど輝かしい結果が残るわけでもありません。ただ、4年次には吹奏楽団の団長を務めさせていただき、応援部のおかげでとても充実した大学生活を送れたと感謝しています。また、就職活動も無難に終え、希望する企業に入社することができました。

入部のきっかけともなった神宮球場で演奏する南谷氏
入部のきっかけともなった神宮球場で演奏する南谷氏

宗岡氏:私の入部動機は、南谷さんと似ているかもしれません。入学前から、大学生活では「これを頑張った」といえる何かに出合いたいと考えていました。運動好きだったので打ち込めるスポーツを探し、東大を卒業した父親からは「漕艇部はどうだ?」と。自分は背が高いこともあって、アメリカンフットボール部やラグビー部からも声をかけていただきました。最後まで漕艇部とアメフト部と迷ったのですが、調べてみるとボートの競技は全力を出す時間が7分程度で、それが自分の身体的特性にもあっていると判断し、漕艇部を選びました。

1年次は勉強も面白くて、部活を辞めようかと悩みましたが、2年次でトップクルーに選ばれたことから部活に打ち込む覚悟を決めました。しかし、いわずもがな、勉強はおろそかに(笑)。3年次は、一つ上の代が強かったこともあり、本気で日本一を取りにいこうと一丸になって取り組むことができ、非常に楽しかったですね。4年次になり自分がキャプテンを務めるようになってからは、なかなかチーム全体のビルドアップができず苦しみ、悩みました。しかも最後のレース直前に私を含めた6人が新型インフルエンザに感染。結果は散々でした……。そんなこともあって、大学院時代の2年間は、強い代をつくれなかった罪滅ぼしの気持ちから漕艇部のコーチとして後輩の指導に努めました。その後、博士課程に進み、博士号を取得。5年間の事業会社勤務を経て、2021年の春、大学の研究室に戻ってきたという流れです。


引退レースとなった全日本選手権を漕ぎ終えた直後の舵手付きペアのクルー(宗岡氏:左)

部活のOB会費以外で現役学生を支援する方法――それが東京大学基金への寄付だった。

南谷氏:現役生のころは東大基金の存在自体を知らなかったのですが、応援部創部70周年記念行事の際に基金の案内があり、そこで初めてOB会費以外に運動会を支援できるルートがあることを知りました。応援部は学ランや楽器など備品が多く、運営維持にけっこうお金がかかります。大学3、4年生のころ、部活の会計報告を見て、自分たちの活動はOB会費に支えられていることに気づきました。

今は新型コロナ下なのでわかりませんが、私たちの時代には、OB会報誌を手渡しに行く「OBまわり」の際に、食事をご馳走になったり、お話を聞かせてもらったりする機会がありました。また、卒業後数年のOB・OGからは、野球の応援などの後に食事をご馳走してもらうこともよくありました。ただ、その後はみなさん仕事が忙しくなったり、結婚して家庭を持たれたりして、OB・OG活動から離れていってしまいます。私自身は、OB会費をしっかり払っていたのですが、それ以外の支援もしたい、できる方法があることを知り、基金に寄付をすることにしました。

 

IBM若手時代
応援部の魅力について語ってくださった南谷氏

宗岡氏:そうなんですよね。漕艇部も同じ状況で、みなさん卒業後数年は積極的にOB活動を行ってくれるのですが、20代後半~30代で低調になり、40代以降で仕事や時間に余裕がでてくると再び参加してくれるようになります。特に定年後の先輩方はよく来てくれますね。そういったOBの方々の支援があったからこそ、現役生の時代は練習に打ち込めたという側面があったわけです。もちろん、私もOB会費は毎年払っていますが、あるとき東大基金を経由することで、運動会と大学に分けて寄付ができることを知りました。そもそも部活は大学の許可を受けて活動するもの。

現役生のころは、しょっちゅう大学の合宿所にこもっていました。つまり大学からも、かなりの支援を受けていたということです。東大基金に寄付をすることで、部活と大学の両方に恩返しができることがわかり、今では毎年継続的に基金に寄付をしています。クレジットカードを使った定期寄付を選べば、寄付の振り込み忘れを防げるのでそうしています。本当は、自分の現役時代に支援をしてくれたOBの方々に直接恩返しできればいいのですが、それは現実的ではありません。でも、今の現役生の活動を支援し、育成をサポートすることは、結果的に東京大学と漕艇部を愛しているOBの方々への恩返しにもなる。いわゆる“恩送り”の考え方です。

小田部氏:恩送り、いいですね! ラグビー部のOBの中には、社会に出られて成功し、全国紙の記事で紹介されたり、多額の寄付をされるような著名人も多々いらっしゃいます。私が現役生のころ、ラグビー部員の一員であるというだけで、そういった方々に食事をご馳走してもらうなど、さまざまな支援を受けていて、OBがとてもかっこよく思えたことを覚えています。自分はそういった方々のように大成し、一度に多額の寄付をすることはできません。ただ、地道な支援はできます。

私は今、東大職員として働いていますが、職員の場合、給与天引きで基金への寄付ができる。その仕組みを知ってから、毎月1500円ずつ東大基金への寄付を続けています。そして昨年、ようやく総額が10万円に達しました。とても小さくゆっくりとした支援ではありますが、現役生のころに憧れていた先輩方に少しだけ近づけた気がしますし、ちっぽけな自分でもラグビー部への貢献ができたと感じています。ラグビー部は、大学時代の自分に大切な居場所を与えてくれました。大好きな東大ラグビー部の部員はもちろん、東大のすべての学生たちに幸せな学生生活を過ごしてほしい。そのためにも、自分はキャンパスで見かける“面倒見のいいおっちゃん”のような存在になりたいと思っています(笑)。

IBM取締役時代
寄付することで東大職員になった初心を思い出せるという小田部氏

寄付をしたことで生まれた、母校、そして所属していた部活との新たな絆。

宗岡氏:寄付という行為には、さまざまな側面・意味があります。たとえば、大学や部活とのつながりを保てることです。東京から離れて暮らしていても、現役生と直接のやり取りがなくても、寄付をしていれば現役生の役に立てていると感じることができる。また、学生時代の感情を呼び起こしてくれるというメリットもありますね。現役生のころの自分は、かなり情熱的に部活に取り組んでいました。もちろん今の研究活動や生活を頑張っていないというわけではありません(笑)。

でも、目標や志を見失いそうになるとき、定期的にあのころの熱い気持ちを思い出すことができることは、私にとって非常に大きな意味があるんです。漕艇部ではOB会費を納めているOBに対して、部からメールで毎月活動報告が届きます。PDF2枚くらいの報告書ですが、新型コロナ禍で部活自体ができない時期も工夫して練習を続けたり、活動再開を大学に訴えたりしていたことなどを知りました。最近は、駒場東大前駅のホームに新規部員勧誘の大きな看板も出しています。綺麗なライトブルーの川でのボートをとらえた写真なのですが、ぜひ見ていただきたい。苦しい状況下でも、現役生たちが一所懸命活動をしていることがわかり、「自分ももっと頑張らなければ」と身が引き締まります。
 

 
今の学生の活動を見て励まされているという宗岡氏

小田部氏:私も大学とラグビー部にお世話になった身として、自分にできる恩返しをしたいという強い思いがありました。そのために、現役生に東大に入ってよかったと思える学生生活を送ってほしいと考え、東大職員という働き方を選んだわけです。それに寄付を続けることで、その初心を思い起こすことができますし、部活とも「つながっている」という感覚を維持することができています。

南谷氏:お二人とは違って、私は継続的に寄付をしているわけではありませんが、創部70周年の際に、私の寄付分を含めて多くの資金が集まったと聞いています。現役生から「新しい応援旗をつくりました! 」※と報告が届いたとき、彼らの活動の役に立ったことがわかり、とてもうれしかったです。思い返してみると、自分の現役時代は買い換え資金が捻出できず、古い楽器を使い続けなければならないなど、活動費の収支を見るたびに悩みました。ですがこうやって、寄付によって自分が現役生のころにできなかったことを、今の現役生が実現できている――寄付をして本当によかったと思っています。

※OB会で応援旗布、東大基金で旗関係用具を購入
 

(略:全文及び小田部様・南谷様・宗岡様からのメッセージ動画は、「東京大学基金」ウェブサイトの寄付者インタビューをご覧ください。)

 

構成:菊池 徳行(株式会社ハイキックス)
   にしみねひろこ

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