脳回路の驚くべき精密さが判明 1ミクロンの精度で実現するクラスター入力
脳内の回路をつくるニューロンは、他のニューロンと結合し信号を受け取る樹上突起を持っています。樹上突起上の神経同士の接触点(シナプス)の分布は、これまではっきりわかっておらず、2つの説が唱えられていました。同時刻の入力が特定の箇所に集中するクラスター入力モデルと、樹上突起全体に及ぶランダムな箇所に入力される分散入力モデルです。
東京大学薬学系研究科の池谷裕二准教授らは、多くのシナプス活動を同時に観察できる「大規模スパインイメージング法」を開発し、ニューロンが1ミクロンの精度で、局所的に集中した回路を正確に作り、クラスター入力を実現していることを示しました。
さらに、このような精密な回路形成は、新たな学習の際に脳内で起こるシナプスの長期増強(long-term potentiation, LTP)の結果として実現されていることがわかりました。
このような精巧なクラスター入力は、仮に当初の回路がランダムだったとしても、学習の過程で局所的にLTPが生じることでシナプスの要・不要が判定され、不要なシナプスが削り取られることで、自然に形成されると考えられます。
神経入力に関する理解を大きく深めた本研究成果は、記憶・学習のメカニズムや、認知症やうつ病等の記憶の変調を伴う神経疾患の原因解明に役立つと期待されます。
(広報室 南崎 梓,ユアン・マッカイ)
論文
Naoya Takahashi, Kazuo Kitamura, Naoki Matsuo, Mark Mayford, Masanobu Kano, Norio Matsuki, Yuji Ikegaya
“Locally Synchronized Synaptic Inputs”
Science 20 January 2012: Vol. 335 no. 6066 pp. 353-356, doi:10.1126/science.1210362
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