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「なぜ」を忘れない。「自分は正しいのか」を問い続ける。 | UTOKYO VOICES 003

掲載日:2018年1月12日

UTOKYO VOICES 003 - 「なぜ」を忘れない。「自分は正しいのか」を問い続ける。

大学院法学政治学研究科 教授 宍戸常寿

「なぜ」を忘れない。「自分は正しいのか」を問い続ける。

10年前には影も形もなかった技術が次々に生まれ、国際情勢が移り変わり、社会が大きく変容していく時代。それに応じて憲法や法律も変わらなくてはという声が高まっていく。しかし本当にそうか?と宍戸は問い返す。

気鋭の憲法学者として、政府の委員会や政党の勉強会、公開シンポジウムなど様々な場所で意見を求められる。

憲法改正に関する議論はいま、改憲か護憲かの二者択一で語られることが多い。しかし宍戸は、まずは何を解決したいのか、どのような社会にしたいのかという「目的」があり、その「手段」として憲法改正が有効かどうかを議論するという順番でなくてはおかしい、と言う。

「委員会や研究会の場では、手段ではなく目的を起点とした議論が進められるような材料を提示したいと考えています」

憲法に限らず、情報に関する法律を検討する委員会や業界団体の研究会にもしばしば呼ばれてきた。

「憲法とは、民主的に社会を運営していくためのインフラであると私は理解しています。うまく機能するには、人々がメディアを通じて政治に関する情報を受け取れ、自由に発言でき、それによって適切に世論が形成される環境が前提となる。つまり、情報法は憲法が支える民主主義のあり方にも大きく関わっているんです」

情報分野では「新しい技術が出てきたから規制する法律を」あるいは「規制の緩和を」といった提言がよくなされるが、ここでも宍戸は徹底して、手段についての議論が先走るのを抑えるかのように根本を問う。

「既存の法律がこれまで何をカバーしてきたのか、何が本当に新しく発生した状況で、既存の法律が何をカバーできていないのかに目を向けなければ、議論は上滑りしてしまう」

手段の議論に巻き込まれず、根底にあるはずの目的を問い続けることは知的に大きな負荷がかかる営みだ。その上、現実を動かしている実感には乏しい。ついつい人は何かしなくてはと熱くなり、議論が単純な二項対立の構図にはまっていく。「その足かせを外すのが研究者の仕事でもある」と宍戸は言う。

基本姿勢は、所与のものに対して「なぜか」を問うこと。憲法であろうと法律であろうと「そう決まっているから」では決して終わらせない。

「これは法的にOK、あれはNGと仕分けするだけが法学者の仕事ではない。各界のリーダーや他分野の研究者が『なぜこんな規制があるのか』と尋ねる時、その人の頭には、その規制が必要か不要かではなく、どうしたら社会や顧客がハッピーになるのかという問いがあるはず。それに対し、なぜこの法律が成立し機能してきたかを説明した上で、目的を実現するためにその法律とどう向き合うかを助言するのが我々の役割じゃないかと思うんです」

一息で語った後、その「なぜ?」に答えることが自分の学問を鍛えることにもなりますしね、と研究室を埋め尽くす大量の書籍を見まわした。

取材・文/江口絵理、撮影/今村拓馬

Memento

大学を卒業する時点ではまだ、研究者を目指すか法曹の仕事につくかをまだ決めかねていた。研究職を続ける道を決定づけたのは、助手時代に書き上げた論文が高い評価を受けたこと。後にその論文は書籍として出版された

Message

Maxim

「先人が合理的に議論を積み重ねて作り上げた法律をやみくもに守るのではなく、壊すのでもなく、その背景と経緯をよく知ること。それが、今の社会状況と法律の関係を検証するための材料になると思います」

プロフィール画像

宍戸常寿(ししど・じょうじ)
1993年に東京大学に入学し法学部へ。在学中の95年に司法試験合格、97年に学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科助手に。その後、東京都立大学(首都大学東京)助教授、一橋大学准教授を経て、2010年に東京大学大学院法学政治学研究科准教授に。12~13年には米国カリフォルニア大学バークレー校ロースクールに客員研究員として滞在。13年より東京大学大学院法学政治学研究科教授。憲法・情報法の有識者として政府など公的機関の委員会のメンバーを数多く務めるほか、情報・マスコミ業界の研究会への招聘も多い。

取材日: 2017年11月7日

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