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パンデミック時の心のケア 新型コロナウイルスによるストレス対処情報サイト「いまここケア」を公開

掲載日:2020年5月14日

これまでの研究成果や知見をもとに、科学的根拠に基づいた対処法を紹介(「いまここケア」サイトより)

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、私たちの生活は激変しました。日本では4月に史上初の緊急事態宣言が発令され、今でも広範な地域で外出自粛要請が続く中、多くの人が先の見えない不安やストレスを抱えています。

そのような状況を少しでも改善すべく、東京大学医学系研究科精神保健分野の研究者らは、外出自粛中の住民や在宅で働く人たちが今すぐ自宅で実行できるストレスマネジメント法を紹介したウェブサイト「いまここケア」を作成し、今月初めに一般公開しました。

プロジェクトを統括する川上憲人教授は、東日本大震災の被災者の心のケアについての調査研究など、非常時のストレス対策に関わってきましたが、新型コロナウイルスに関連するストレスには、今までにない「複雑さ」があると話します。

「東日本大震災では、目に見える大きな被害があって、亡くなった方も多く出たのですが、一方で場所が限定されていたので、資源を集中させて対策を取ることができました。新型コロナウイルスの感染は全国津々浦々に広がっていて、しかもそこで何が起こっているかが見えづらく、いつ終わるのかもわからないという意味で非常に複雑です」

それでも、感染収束のめどが経たないこの時期にサイトを立ち上げられたのは、労働者の自殺予防トレーニングなど、これまでに開発したオンラインプログラムを通じて蓄積したノウハウがすでに研究室にあったから。最初の打ち合わせから約2週間で、サイト公開にこぎつけました。

「いまここケア」は「マインドフルネス」「行動活性化」「身体運動」「睡眠」「ストレス対策情報のまとめ」の5つのパートに分かれ、ストレスや抑うつ症状の改善を促す実践方法を、音声や映像ガイドも使ってサポートします。 

マインドフルネスを使った呼吸法の実践もできる(「いまここケア」サイトより)

例えば、欧米で普及し最近日本でもよく聞かれる「マインドフルネス」。マインドフルネスとは、今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向けることです。がんや交通事故などの影響により慢性の痛みを抱える患者を対象に、自分自身や周りの環境との関わり方や心の置き方によって本人が感じる主観的な痛みや苦しみを和らげる方法として米国で研究が始まった背景があります。

サイト開発責任者の今村幸太郎特任講師は、「コロナウイルス感染症拡大の影響から生じる様々な問題の短期的な解決が簡単でない今の状況で、まずは少しでも気持ちを落ち着けたり穏やかな気持ちでいられるようなプログラムが必要と思い、効果に科学的根拠のあるマインドフルネスを選びました」と話します。

「行動活性化」では、うつ病の治療で科学的根拠が認められている理論を使って、日々の活動が制限されている中で少しでも楽しいという気持ちや達成感を感じられる活動を増やしていくコツを紹介しています。

さらに「身体活動」のパートでは、外出自粛要請発令中に屋外で活動してもよいのか心配な人に対し、「密閉・密集・密接」の「3密」を避け、感染を広げないよう注意を払った上で、屋外で散歩やジョギングすることは問題ない、と説明。日本運動疫学会も4月18日の声明で、身体活動不足や座りすぎによる健康被害を防ぐため、家の中やその周辺において人と人との距離を充分に取って実施する身体活動を推奨しています。

いまここケア」サイトのトップページ

サイトの内容については、今後、研究室の持つ医療従事者などのネットワークを通じて意見を求め、随時更新すると話す今村先生。サイトのストレス改善効果の測定もしていく予定です。

一方、感染拡大下で一気に広がった在宅勤務によって、孤立感を感じている人も少なからずいるかもしれません。リモートワーク時代の企業の管理職は、従業員を信用した上で、職場にいるとき以上に一人一人の仕事の状況を把握し、目標を共有し、仕事の成果を聞く、といったケアをきめ細かくする必要がある、と川上先生は話します。また、日本では、不況になると40代から50代の男性の自殺率が上がる傾向があるため、国全体で、企業への対策を密にするなど、制度を変えていく作業も必要になるだろう、と指摘します。

まずは、「いま」、「ここ」から。

取材・文/小竹朝子

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