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10年目の福島で、「現在進行形」の災害をどう伝えるかを学ぶ

掲載日:2021年4月6日

福島県双葉町産業交流センター屋上からみた現在の沿岸部の様子。海岸沿いに防潮堤が整備され、工事車両が作業する様子が一望できるが、辺りに人気はなく、駐車場も空いたままだ(2020年11月21日(土)撮影)

東北地方太平洋沖地震、東京電力福島第一原子力発電所事故から10年が経過しました。しかし、福島は津波に加えて放射性物質による汚染の被害が大きかったことから、他の東北の被災地とはこの10年の歩み方が異なり、「現在進行形」の課題に直面し続けています。

情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也准教授(東日本大震災・原子力災害伝承館上級研究員を兼務)は、原子力災害や自然災害に関する社会心理やリスク・コミュニケーションの研究を行ってきました。

関谷先生は、「10年経っても、福島では避難や除染、原発の廃炉作業や汚染水処理、風評被害など、多くの問題が現在進行形で続いています」と話し、「原子爆弾を投下された広島・長崎や、水質汚濁による公害に苦しめられた熊本県水俣市は、長い時間をかけて、平和や環境というメッセージを発する存在となりました。被害が過去のものでない福島には、まだそのような明確な『教訓』のようなものが見えない状況です」と指摘します。

このような現在進行中の災害をいかにコミュニケートしていくかを学ぶため、関谷先生は、2020年11月20日(金)~22日(日)の2泊3日で、福島県双葉町と浪江町を訪れるフィールドワーク型の授業を実施しました。

今が重要なタイミング

関谷先生は、今が、社会問題やジャーナリズムに関心のある学生が福島を訪れる非常に重要なタイミングだと話します。

2020年3月に営業を再開したJR双葉駅周辺の立入規制緩和区域を視察 

「原子力災害の課題は今後数十年続いていくことになりますし、現在の10年の課題を理解しておくことは、福島原発事故や東日本大震災の教訓をどう伝え、今も残る課題にどう対処すべきか、今後の災害や危機を考える上で基礎として、さかのぼって広島・長崎の原爆、沖縄問題などをどう考えていくべきかを考える契機にもなります」

被災地の視察に参加したのは、学際情報学府「原子力災害論III」を受講する大学院生と情報学環教育部「メディア・ジャーナリズム研究指導」を受講する教育部研究生の計17名です。

参加学生は、東京電力福島第一原子力発電所を訪問して1~4号機や汚染水のタンクを目の当たりにし、東京電力廃炉資料館の見学も通じて、事故と廃炉作業について理解を深めました。その後、将来に教訓を残していく目的で昨年9月に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館、震災遺構の請戸小学校、津波発生時は請戸小学校の児童や教職員などが避難して現在は霊園がある大平山を見学しました。昨年3月のJR常磐線全線開通に合わせて営業を再開した双葉駅周辺や、復興のシンボルであり町の人びとが集う「道の駅なみえ」も訪れました。

さらに、東日本大震災・原子力災害伝承館にて福島大学の天野和彦特任教授、テレビユー福島記者、浪江町住民の方の講義を受講しました。この授業を通じて「災害を伝承していくこと」や「災害をコミュニケートしていくこと」を考えました。

なお、このフィールドワークは、東京大学FSI事業「次世代リスクコミュニケーション研究・教育拠点」の一環で実施されました。また、コロナ下のため、東京大学アイソトープ総合センターの研究協力のもと、参加者全員に事前の自宅での隔離とPCR検査等を実施して現地に向かいました。

なぜ複雑なのか

学生らは、視察を終え、オンラインで成果報告会を行いました。「複雑性という特徴がある」と発表した学生に関谷先生は、「色々な課題があって複雑だというのはその通りだが、何が複雑なのか。なぜ複雑に感じるのか、実際どう複雑なのかを考えなければならないのではないか」と問いました。学生らは、現地で関わった様々な関係者のそれぞれの発言や思いを振り返りつつ、どのように現状を理解すればよいのか悩みました。

この原子力災害は、中長期的に被害が続くという点でこれまでの自然災害とは異なり、立場によって評価が異なる特殊性があるため、社会全体で共通理解を持つためのコミュニケーションが特に難しいと、関谷先生は指摘します。

「原子力災害について考える際、広域避難、区域外避難、甲状腺がんなどの健康影響、放射線に対する不安感、賠償など、原子力発電所事故の影響や放射線の影響をより大きくみようとする方向性と、地域再生、帰還、農林水産業や観光業の回復、風評被害、リスク・コミュニケーション、コミュニティ再生など、福島県の復興をより重視する方向性、二つの方向性があります」と先生は説明します。「前者は事故の影響や放射線の影響をより大きくみようとする考え方、後者はより小さくみようとする考え方と結びつき、放射線について不安の大小、原子力発電の推進ないしは再稼働の反対/賛成、福島県の農産物消費に対する消極的姿勢/積極的姿勢などと結びついてしまっています。これらの課題群は、同じ原子力災害、放射線災害による被害であるがゆえに密接に「連関」していますし、それらを総体としてみようとしないと理解できません」

研究者は「なぜ複雑か」「どのように複雑か」を解明する仕事を担います。 原子力災害を総体的に学び、原子力災害の課題について一つ一つ読み解く努力が求められる中、適切に課題を認識するために、実際に現地を訪れて現状を目の当たりにし、地元の人々にお話を伺うフィールドワークが重要だ、と関谷先生は強調します。

今後、当時の災害の記憶がほとんどない若者が大学生になっていくでしょう。この東日本大震災から何を学ぶべきなのか、何を次の世代に伝えていくのか、大学教育もマスメディアも博物館も検討の余地がある、と関谷先生は話します。コロナ下でも学びを止めず、東日本大震災・原子力災害の課題を考えていくべく、来年度以降も同様の授業を開講して学生とともに被災地を訪れ、課題に向き合っていく、と決意を述べました。

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津波被害を受けたが、当時在校していた児童と教職員が全員無事に避難できた福島県浪江町立請戸小学校の震災遺構を見学 

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東日本大震災・原子力災害伝承館にて福島大学の天野和彦特任教授による災害対応と避難所運営についてのワークショップを受講 

文:情報学環教育部 森下瑠里花(広報課インターン)
写真提供:関谷直也准教授 森下瑠里花(トップ画像)

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