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第31代総長は「対話」を重視する ~藤井輝夫総長インタビュー

掲載日:2021年5月6日

安田講堂の総長応接室で質問に応じる藤井輝夫総長(3月26日)

2021年4月1日、藤井輝夫先生が東京大学の第31代総長に就任しました。就任挨拶のなかで、様々な背景と価値観を持つ人々との対話を進めて東京大学の新しいあり方を開拓したいと述べた藤井総長。その思いをもっと広く深く共有していただこうと、東京大学広報室長の横山広美先生が、新総長との初対話に臨みました。今後6年間、先頭に立って東京大学を牽引していく藤井総長のメッセージと人となりをご確認ください。

 

横山 4月1日付けの就任挨拶では「対話」を重視されていましたね。これにはどんな思いがこめられているのでしょうか。

藤井 社会的にも地球的にも様々な問題が山積するなか、コロナ禍の影響で、直接会って互いに話す機会が減ってしまいました。そのせいか、自分の思いが相手にきちんと伝わっていないと感じることが多々あります。思うに、このことがさらに多くの問題を生じさせているのではないでしょうか。この一年だけ見ても、紛争、差別、分断といった問題が増えているように感じます。様々な人々がもっと活発に対話を行い、共感を拡げていかないといけないのではないか。そうした思いを強く持っています。

 私は前総長の五神先生の下で社会連携と産学官協創を担当し、ある意味大学のフロントの部分、社会との境目となる現場をつぶさに見てきました。大学は自らの活動を学外にしっかり説明し、社会から理解とサポートを得る必要があります。活動をきちんと発信し、社会の皆さんと向かい合って話す対話の作業を続けないと、大学というものの存在自体が社会から認めてもらえないでしょう。大学は様々なよい活動を行っていますから、それを学外の方々にもしっかりとお伝えしながら共感を拡げていくことが大事だと思っています。

ダイバーシティを重視するのは当然のこと

横山 同情ではない真の共感は、お互いの理解を深めます。また、対話のポイントは双方向性にあり、つまりこれまで伝える一方であった我々の側が社会の多様な意見を学び、大学が変わることにもつながります。たとえ意見の相違があっても、対話によって社会との信頼が醸成されることは、分断の時代にとても大事なことだと思い、総長が大事にされることを心強く思います。

藤井 ダイバーシティを重視するのは当然のことです。世界にはいろいろな人がいて、それぞれいろいろな背景をもって生活しています。大学が活動を行う際に、いろいろなバックグラウンドを持つ人が集まってディスカッションを行い、多様なアイデアを出し合うことが、活動の成果をより高いレベルへ引き上げるでしょう。大学にとってダイバーシティが重要な経営方針の一つとなるのは間違いありません。大学として最優先に考えなければいけないことだと思っています。

横山 新しい執行部体制では、女性が過半数ということが注目されましたが、ここにはこだわりましたか?

藤井 そういうわけではなく、ともに仕事をしたいと思った皆さんにお願いしたら結果としてこういう布陣になったということです。インパクトを狙ってこうしたというわけではありません。

横山 今後の大学運営のプランを検討するワーキンググループ(WG)の資料を拝見しましたが、テーマの切り分け方とその略称が斬新だなという印象を受けました。研究、教育、協創、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーン~)、CX(コーポレート~)、Diversity & Global、MX(マネジメント~)という8つのWGが設定されていますが、これについて紹介していただけますか。

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広報室長の横山広美先生(カブリ数物連携宇宙研究機構教授)

藤井 研究、教育はもちろん大学の本分たるものであり、協創は学外とともにやっていくということです。これらは大学の活動として当然考えるべきことということでWGを置きました。DXやGXは、教育・研究・協創のすべてに関係するものとして想定しています。Diversity & Globalは全体に共通する前提のようなもの。CXは、大学と社会とのコミュニケーションのあり方、大学自体のオペレーションや働き方改革などを含むテーマです。すなわち、教育・研究・協創はこれまでどおりの大学のアクティビティで、DX・GX・CXはそれらと直交するものというイメージ。もともとはマトリックス図のなかで、教育・研究・協創に横串を通すようなものとして捉えて描いていました。Diversity & Globalはもっとベーシックな価値観を支え、MXは大学を財務の面で支えるという重要な経営マネジメントと捉えています。マネジメントの改革は、これまで五神前総長が大学を真の経営体にするとおっしゃってやってきました。私はそれをさらに一歩進めます。

横山 さて、昨年10月の記者会見では大学を「世界の誰もが来たくなるような学問の場」にしたいと述べられました。私たち構成員はどのようなイメージを持てばよいでしょうか。

藤井 もちろん「大学」ですから基本的には学問の場です。「誰もが」では学生、留学生、研究者、そして職員も想定しています。ここで学べばおもしろいことができそうだと思える場、誰もがここに来て働きたいと思える場にするにはどうしたらよいかという発想で捉えてほしいと思います。

横山 たとえば専門性の高い職員にどう活躍いただくかということも含まれるでしょうか。

藤井 はい。これまで理事・副学長として担当してきた社会連携本部では、ファンドレイザーという専門家がいましたが、広報でも国際でもやはり専門性の高い人は必要でしょう。専門性を取り入れることは進めたいですね。一方で、働く場所として考えたときに、新卒の学生は大学で働きたいと思ってくれるのか。実は、こんなに多種多様な活動をしている組織体というのは、大学以外だとそうはないと思うんです。学務に関する仕事ができるのは当然ですが、イベントの企画や実施もできるし、広報の仕事もできるし、病院に関わることもできるし、いまなら資金運用のような金融に関わる仕事だってできるわけです。働く場所としても魅力的な側面は数多いはずで、そこはもっと伝えたほうがよいかなと思っています

学びと社会を結び直す

横山 10月の会見で語った「学びと社会を結び直す」は印象的な言葉でした。これについても補足いただけますか。

藤井 いまの時代というのは、大学で学ぶ学生たちが働き始めたときに何が飛び出してくるかわからない、どんな課題に取り組むかも予想できない部分があります。でもそこでなんとかやっていかないといけない。学んだことを実際に現場で生きた知識として使うことが重要です。大学で学ぶだけでなく、海外や地域の自治体、学外の学術機関などに飛び出していって、学んだことを使う機会を増やしたいと思って言いました。

 東大は産学官協創で様々な企業と連携活動を展開しています。インターンシップというといまは就職活動と直結していますが、就職と関係なく、学んだことを現場で活かす機会をつくってもらおうと思ってインターンシップをやってきました。そんな機会を増やしていきたいんです。産学官協創の活動を、学生の学びの場を拡大することにも活用したいと思っています。

横山 学内で学び、実践の場にそれをあてはめるときにまた学ぶわけですね。

藤井 そうです。実践の場で足りないことに気づいて、また大学に戻ってきて次の学びのモチベーションにつなげる。それが「結び直す」ということだと思います。

デジタル化でコミュニティを拡大

横山 10月の会見では大学運営のデジタル化にも触れておられましたね。

藤井 事務手続きのデジタル化はもう待ったなしの状況です。特にコロナ禍の状況ではなるべく紙を使わずに物事が進められなければならず、そのためには既存の様々なシステムを上手につないで使えるようにしないといけません。そうして事務作業の負担を軽減し、そこに使っていた時間を次の工夫にあてるようにしたいと思います。

 もうひとつはキャンパス自体のサービスのデジタル化です。たとえば障碍(がい)がある人にとって、どのルートを選べばキャンパス内を移動しやすいのかを調べるだけでも簡単ではないでしょう。デジタル化によりそうしたことにもっと配慮できればと思います。部屋を使うときの手続きとか、授業履修の管理なども、学生が手元で手軽にできるようにしたいですね。実はそのためのアプリについては、一昨年から議論を始めています。学生時代にこのアプリを活用し、それを卒業後も使えれば、大学と卒業生はつながり続けることができるでしょう。卒業生とのつながりは東大にとって非常に重要。大学というコミュニティを拡大するツールとしてのデジタル化にも注目しています。

横山 デジタルツールは、ある種の対話的要素があるといいますか、用意するだけでなく使う側の意識も巻き込まないと長く使われないようですが、それができたら楽しみですね。藤井先生は、構成員全員にビジョンを理解してもらいたいともおっしゃっていました。デジタル化についても、たとえば情報システム系の人だけではなく皆でやるんだということでしょうか。

藤井 そのとおりです。東大を誰もが来たくなるような場、誰もがいきいき活動できる場にしていくんだ、という気運、カルチャーのようなものを皆で共有し、誰もが参加して自分の可能性を発揮できる場にしたいですね。

取材日=2021年3月26日

※藤井総長は4 月5 日に新型コロナウイルス感染が判明し、療養していましたが、4 月16 日に無事公務に復帰しました(本取材の関係者に感染はありませんでした)。

 

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