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研究成果「弛みが起こりにくい長寿命型人工関節の開発」研究成果

研究成果「弛みが起こりにくい長寿命型人工関節の開発」

発表タイトル : 弛みが起こりにくい長寿命型人工関節の開発

発表者 :  東京大学医学部整形外科     中村 耕三 教授
        東京大学大学院工学系研究科  石原 一彦 教授
        東京大学医学部整形外科     茂呂 徹 博士
        東京大学医学部整形外科     川口 浩 助教授
        東京大学大学院工学系研究科  金野 智浩 博士
        日本メディカルマテリアル株式会社  山脇 昇

発表概要 :

  生体適合性材料 (MPC)を用いることによって、人工関節の最大の問題点であった、手術後に起こる弛み(ルースニング)を抑制する画期的な長寿命型人工関節の開発に成功しました。この人工関節は従来の人工関節の寿命を飛躍的に延長させ、関節に不具合を来した患者さんの機能改善手術として多大な貢献をもたらすことが予想されます。

発表内容

  人工関節置換術は、変形性関節症や関節リウマチなどの関節疾患や骨粗鬆症による骨折などで役割を果たせなくなった関節を人工の関節に置き換える手術です。国内では年間約10万件の手術が行われており、この件数は社会の高齢化に伴って増え続けています。一方、手術後約10~15年で生じる弛み(ルースニング)は最も深刻な合併症であり、一度弛みを生じると痛みや運動制限を生じ、人工関節を入れ換える手術 (再置換術)が必要となります。私達はこの深刻な問題の解決を目指し、医学部整形外科教室と工学系研究科マテリアル工学専攻石原・高井研究室からなる医工連携チームをつくり、研究を進めてきました。
  弛みは、人工関節の関節面に使用している高分子材料であるポリエチレンの摩耗粉を、マクロファージという細胞が異物として認識して取り込むことがきっかけで起こる、人工関節周囲の骨の破壊 (骨吸収)が主因です。そこで、ポリエチレンの摩耗粉を減らし、かつ摩耗粉が骨吸収を引き起こさなければ弛みを阻止できると考え、石原教授らがナノテクノロジーを用いて創製した、ヒトの細胞膜成分と同じ構造を持つ高分子材料 MPCで関節面を覆った人工関節を開発しました。
  今回の研究では、生体工学的側面と生物学的側面から検討しました。工学的な関節面の摩耗については、手術を受けた患者さんの歩行を再現するシミュレーターを用いて実験しました。10年分以上の歩行負荷をかけても、MPCで被覆した人工関節はほとんど摩耗しませんでした。また、生物学的な骨吸収に与える影響については、実際の摩耗粉と同程度の大きさの粒子を用意してMPCで被覆し、マウスの骨吸収モデルを用いて評価を行いました。その結果、MPCで被覆した粒子はマクロファージによる取り込みを受けず、したがって骨吸収を誘発するような伝達物質の産生が殆ど見られませんでした。マウスの骨の上に粒子を移植して一週間後に骨吸収の具合を観察すると、MPC被覆していない粒子では骨が強力に吸収されましたが、MPCで被覆した粒子では骨は全く吸収されませんでした。
  このような医工連携研究の結果、人工関節の関節面をMPCで覆うと、ポリエチレンの摩耗が著減すること、またたとえMPCが摩耗粉になっても骨の吸収を引き起こさないこと、が明らかになり、従来の人工関節における問題が一気に解決できることが示されました。この技術は、人工関節の寿命を飛躍的に延長する長寿命型の人工関節の開発につながり、不具合を来した関節の機能改善に貢献するばかりでなく、若年齢の患者さんにも積極的に人工関節手術を行えるなど、治療方法の選択自体を根本的に変える大きな可能性を秘めています。現在は、日本メディカルマテリアル株式会社を加えた産学連携チームを立ち上げ、実用化に向けた最終段階の研究が進んでいます。

発表雑誌

  Nature Materials  11月号(on-line publication 10月24日)
  論文タイトル「Surface grafting of artificial joints with a biocompatible polymer for preventing periprosthetic osteolysis」

添付資料

MPCの効果図

 

 

 

 

 

 

 

三次元解析による人口関節の磨耗の検討の図及び粒子の移植による骨吸収の検討の図

 

 

 

 

 

 
 

 

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