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「粒子法コードユーザーグループの結成-造船産業の国際競争力向上を目指した試み-」研究成果

粒子法コードユーザーグループの結成
-造船産業の国際競争力向上を目指した試み-

概要

 鉄道・運輸機構、東京大学、横浜国立大学、海上技術安全研究所は、粒子法と呼ばれる新しいシミュレーション技術を用いた船舶の波浪衝撃解析コードを共同で開発し、このコードを利用・改良するためのユーザーグループを結成することにしました。このコードを用いると、船舶の甲板に波が打ち込む挙動と、その荷重を精度よく計算できます。荒天時における船舶の安全性の向上や推進性能の向上に利用でき、造船産業の国際競争力強化に貢献することが期待されています。本ユーザーグループの初会合が12月16日(木)に三鷹の海上技術安全研究所にて開催されます。この会合には日本の主要な造船会社および研究者がユーザーグループのメンバーとして参加します。なお、参加人数は約50名の予定です。


詳しい説明

  粒子法(注1)は東京大学大学院工学系研究科の越塚誠一教授が開発した新しいシミュレーション技術。従来の技術(注2)と異なり、計算格子を一切使用しないという特徴がある。粒子法を流体力学や構造力学に適用する研究がこれまでおこなわれてきた。計算格子を使用しないので、流体の分裂や合体、構造物の破壊など、大変形を伴う問題を解くことができる。
  粒子法を用いると、大きな波が船舶の甲板に打ち込む挙動を計算することができる。これは甲板冠水(こうはんかんすい)と呼ばれ、荒天時に航行する船舶に生じる現象。甲板冠水によって甲板上の構造物に荷重がかかり、船舶が損傷することがある。最悪の場合には沈没に至る。1980年に英国の大型貨物船ダービシャー号が沖縄沖で台風に遭遇。甲板冠水による損傷で沈没し、乗組員が全員死亡するという惨事があった。最近でも、台風遭遇時の船舶の損傷事例は多い。
  そこで、甲板冠水による荷重と損傷を予測するために、鉄道・運輸機構(注3)の研究プロジェクト(注4)として、東京大学、横浜国立大学、海上技術安全研究所が共同で、粒子法を用いた波浪衝撃解析コードを開発した。開発されたコードは、流体シミュレーションをおこなうメインコード(MPS-SW-MAIN)、入力データを作成する入力モジュール(MPS-SW-PRE)、計算結果を出力するための出力モジュール(MPS-SW-POST)から構成される(図1)。これらすべてをユーザーグループ内に公開する。
  図2はシミュレーション結果の1例。海上技術安全研究所で実施した実験の条件で計算をおこなったもの。甲板冠水の3次元的な挙動がうまく計算されている。計算コードを用いたシミュレーションと実験との比較も共同研究としておこなわれ、計算精度が検証されている。このような複雑な水の挙動は、粒子法を使うことによって初めて計算できるようになった。
  「粒子法コードユーザーグループ」の主なメンバーは、造船関連の民間会社、ソフトウエア会社、大学等の研究者。造船業界は日本、韓国、中国が熾烈な国際競争を繰り広げており、荒天時における船舶の安全性の向上や推進性能の向上など、高付加価値の造船技術の開発に本コードを利用することができる。これは日本の造船産業の国際競争力強化につながる。
  日本の科学技術計算の分野は、学術的には世界の最先端のレベルにあるが、産業としては大きく遅れをとっている。例えば、現在流通している流体解析や構造解析の商用コードのほとんどすべてが欧米で開発されたもの。今回のユーザーグループ結成は、日本の科学技術計算コードを普及していくための重要な活動と位置づけることもできる。

 

粒子法による波浪衝撃解析コードの構成図

図1 粒子法による波浪衝撃解析コードの構成


波の打ち込みのシミュレーションの例

図2 波の打ち込みのシミュレーションの例

 

注記

1) 粒子法
  水などの連続体を粒子群で近似し、その運動方程式をこれと等価な粒子運動に変換して現象をシミュレーションする方法。東京大学の越塚誠一教授の開発したMPS(Moving Particle Semi-implicit)法がその代表である。

2) 従来の手法
  流体力学や構造力学の従来のシミュレーション手法には、差分法、有限体積法、有限要素法がある。こうした方法では、計算格子で空間をおおう必要がある。そのため、複雑な形状を扱いたい場合や、形状が変化する場合は、計算格子を生成することが難しくなるという欠点がある。粒子法はこうした欠点を解決する方法として現在注目されている。

シミュレーションに用いる格子や粒子のイメージ 

シミュレーションに用いる格子や粒子のイメージ

 

3) 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(神奈川県横浜市中区本町6-50-1 横浜アイランドタワー24F)

4) 「運輸分野における基礎的研究推進制度」(国土交通省からの運営費交付金により実施している競争的研究資金制度)平成14年度採択課題「粒子法による船舶の波浪衝撃解析手法の開発」

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