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「インターネット速度記録に日本の研究チームが認定される」記者発表

「インターネット速度記録に日本の研究チームが認定される」

東京大学大学院情報理工学系研究科
平木 敬

要旨

東京大学、富士通コンピュータテクノロジーズ(株)、WIDEプロジェクト、チェルシオ・コミュニケーションズが昨年11月に共同で実施した実験の結果が米国 Internet2 の Internet2 Land Speed Record(インターネット速度記録)に認定されました。これは、SC2004 における実験結果が正式に記録として認定されたことを意味します。

記録に用いたインターネットは、CERN(スイス)→ アムステルダム → シカゴ → 東京 → シカゴ → ピッツバーグ であり、CERN とピッツバーグに設置した東京大学の2台のPC間でデータ転送を行いました。データ転送速度は1秒間に7.21ギガビット(約72億ビット毎秒)です。これは、DVD1枚のデータを5秒で地球の半周以上の距離を送ることができる速度です。

実験の詳細は http://grape-dr.adm.s.u-tokyo.ac.jp/news.html を参照して下さい。Internet2 Lanad Speed Record (インターネット2ランドスピードレコード)は http://lsr.internet2.edu/ に最新の記録と過去の記録を見ることができます。

日本の研究チームがインターネット速度記録に認定されたことは初めてです。

1.詳細

平成16年11月に東京大学、富士通コンピュータテクノロジーズ(株)と WIDE プロジェクト、チェルシオ・コミュニケーションズの研究者が、平成16年11月に日本、カナダ、米国、オランダと CERN 研究所(スイス・ジュネーブ)の研究者との協力により、実施した実験(http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/press/press_jp.html を参照のこと)結果が、米国 Internet2 により IPv4 クラスにおける単一ストリームのインターネット速度記録(Internet2 Land Speed Record)として認定されました。日本の研究チームによるインターネット速度記録の達成は初めてです(表1)。この記録は、従来の記録と異なり、標準のイーサネットパケット長(1500バイト)と標準の TCP 通信方式を用いていることを特徴とし、10ギガビットネットワークの高効率利用が特殊な方式なしで実現することを示しました。

インターネット速度記録を実現したネットワークは、CERN (スイス)とピッツバーグ(米国)に設置された東京大学のサーバ間を、下記ネットワークで結合しました。

CERN (スイス)→ アムステルダム → シカゴ  SURFnet
シカゴ → シアトル                 CA*net 4 (CANARIE)
シアトル → 東京                  WIDE プロジェクトが運用する
                             IEEAF (Internet Educational Equal Access Foundation)
東京 → シカゴ                   APAN/JGN2
シカゴ → ピッツバーグ               Abilene
ピッツバーグ SC2004 会場内           SCinet

2個のサーバ間の距離は、中間にある機器間の最短距離の和で測ると 31,248km となりますが、Internet2 のランドスピードレコードのルールにより、20,675km として記録は計算されました。このネットワーク上のデータ転送速度が 7.21Gbps であったことから、今回認定された記録は 148,850テラビット・メートル/秒となりました。なお、ネットワークの往復遅延時間(RTT)は約437ミリ秒です。

年月日

バンド幅距離積
テラビット・メートル/秒

研究グループ クラス
2000年03月21日 4278 Microsoft
Qwest Communications
University of Washington
USC Information Science Institute
IPv4 Single Stream
2002年04月09日 4933 University of Alaska at Fairbanks
Faculty of Science of the University of Amsterdam
SURFnet
IPv4 Single Stream
2002年11月19日 10136 Nationaal Instituut voor Kernfysica en Hoge-Energiefysica (NIKHEF)
University van Amsterdam (UvA)
Stanford Linear Accelerator Center (SLAC)
California Institute of Technology (Caltech)
IPv4 Single and Multiple stream
2003年02月23日
23888 California Institute of Technology (Caltech)
CERN
Los Alamos National Laboratory (LANL)
Stanford Linear Accelerator Center (SLAC)
IPv4 Single and Multiple stream
2003年10月10日 38420 California Institute of Technology (Caltech)
CERN
IPv4 Single and Multiple stream
2003年11月11日
61752 California Institute of Technology (Caltech)
CERN
IPv4 Single and Multiple stream
2004年02月22日 68431 California Institute of Technology (Caltech)
CERN
IPv4 Multiple stream
2004年04月14日
69073 SUNET
Sprint
IPv4 Single stream
2004年06月28日 103583 California Institute of Technology (Caltech)
CERN
IPv4 Single stream
2004年09月12日
124935 SUNET
Sprint
IPv4 Single and Multiple stream

2004年11月09日

148850

University of Tokyo
Fujitsu Computer Technologies
WIDE

IPv4 Single stream

普D過去のインターネット速度記録

 

この記録に関して特筆すべきことは、以下のとおりです:

(1) データ通信が、最も広く用いられている1500バイト標準イーサネットフレーム長、標準 TCP 方式で実現したことは、この技術が将来、広い分野へ適用可能であることを意味していること。
(2) 両端に設置したサーバは、特殊なものではなく一般的に入手可能な標準的部品を組み合わせたPCであること(約30万円のPC)。
(3) 7.21Gbps のデータ転送速度は、ネットワーク技術ではなく、サーバの I/0 バス(PCI-X バス)により決定されていること。東京大学が研究開発した「レイヤ間協調による最適化」技術が遠距離・高バンド幅 TCP 通信の持つ問題点を根源から解決したことを意味していること。
(4) 日本のネットワーク技術が世界最高レベルに達していることを、具体的な形で示したこと。

なお、本成果は、科学技術振興調整費「重要課題解決型研究等の推進」プログラムの実施課題「分散共有型研究データ利用基盤の整備」によるものです。本実験をサポートして頂いたNTTコミュニケーションズ、東京大学情報基盤センターに感謝します。

この実験は、次の企業による機材の提供やサポートを得て実現されました:Foundry Networks、Juniper Networks、物産ネットワークス、及びネットワンシステムズ。


実験参加者

東京大学 平木 敬、稲葉真理、中村 誠、玉造潤史、青嶋奈緒、西村 亮
(株)富士通コンピュータテクノロジーズ 来栖竜太郎、坂元眞和、古川裕希、生田祐吉
WIDEプロジェクト 加藤 朗、山本成一
NTTコミュニケーションズ 長谷部克幸、村上満雄、梶尾美由紀
チェルシオ・コミュニケーションズ(米国) Felix Marti、Wael Noueddine

ネットワーク担当機関
 APAN
 JGN2
 IEEAF
 Tyco Telecommunications
 Northwest Giga Pop
 CANARIE
 StarLight
 SCinet
 SURFnet
 SARA
            Pieter de Boer
 University of Amsterdam
            Gees de Laat
            Paola Grosso
            Freek Dijkstra
 CERN
            Catalin Meirosu


東京大学データレゼボワール/GRAPE-DR プロジェクトは文部科学省科学技術振興調整費に基づいた研究プロジェクトで、科学技術データの国際的な共有システムの構築および天文学や物理学、生命科学のシミュレーションを実施する高速計算エンジンの実現を目指しています。GRAPE-DR プロジェクトでは2008年に2PFLOPS の計算エンジンと数 10Gbps のネットワークを利用する国際的な研究基盤を構築します。詳細は
http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/ および
http://grape-dr.adm.u-tokyo.ac.jp/ をご覧下さい。

WIDE Project は、インターネットに関連する各種技術の実践的な研究開発を行う研究プロジェクトであり、1988年から活動を行っています。133の企業と11の大学を含む他の沢山の組織と連携して、インターネットの様々な発展に寄与してきました。Root DNS サーバの一台である M.ROOT-SERVERS.NET の運用を1997年から行っており、また IEEAF 太平洋リンクのホストとして T-LEX(http://www.t-lex.net/)の運用も行っております。詳細は http://www.wide.ad.jp/ をご覧下さい。

APANは、1997年6月に東京でコンソーシアムを設立、同年12月にネットワークの構築を開始し、翌年9月には米国政府機関NSFから研究資金も受領して、対米リンク(TransPAC)の運用も始めた国際研究ネットワークです。その後も研究・教育ネットワークの参加が相次ぎ、APANはアジア域内のほぼ全ての研究・教育ネットが結集するコンソーシアムに成長、アジア域内の運用センター機能を提供すると共に、北米やヨーロッパと連携してグローバルな研究・教育ネットワークを構成、先端的国際共同研究を進めています。

JGN2は、1999年4月から2004年3月まで運用されたJGN(Japan Gigabit Network:研究開発用ギガビットネットワーク)を発展させた新たな超高速・高機能研究開発テストベッド・ネットワークとして、独立行政法人情報通信研究機構(以下、「NICT」)が2004年4月から運用を開始したオープンなテストベッド・ネットワーク環境です。産・学・官・地域などと連携し、次世代のネットワーク関連技術の一層高度化や多彩なアプリケーションの開発など、基礎的・基盤的な研究開発から実証実験まで推進することを目指しています。JGN2は、全国規模のIPネットワーク、光波長ネットワーク、光テストベッドの研究開発環境を提供しています。また、2004年8月から日米回線を整備し、国内外の研究機関とも連携して研究開発を推進しています。

CANARIE はカナダの先端インターネットの非営利組織で、次世代研究ネットワークやそのアプリケーション、サービスを促進しています。主要なメンバーや世界中の同様な組織との強調を促進することによって、CANARIE は技術革新と成長を促し、社会的、文化的、経済的な利点をカナダ国民にもたらすことに貢献します。CANARIE はカナダを先進ネットワークで世界のリーダと位置づけ、メンバーやプロジェクトパートナー、カナダ政府によってサポートされています。CANARIE はカナダの研究教育ネットワークである CA*net4 の開発および運用を行っています。詳しくは http://www.canarie.ca/ をご覧下さい。

CERN研究所は素粒子物理のヨーロッパの研究所で、基礎研究センターとして世界的に著名な研究所の一つで、LHC(Large Hadron Collider)加速器を現在建設中です。LHCは、これまでで最も野心的な科学プロジェクトで、微小な粒子を正面衝突させることにより自然界の基本法則を解明しようとするものです。2007年に稼動開始予定で、世界中の大学や研究所の約7,000人の研究者が、この加速器を利用して科学の最も根元的な疑問の幾つかに解答を与えようとしています。詳細は http://www.cern.ch/ をご覧下さい。

Pacific Northwest Gigapop はアメリカ北西部に於ける次世代インターネットの基盤で、アプリケーションの協調やテストベットであり、国際的な peering 交換地点である Pacific Wave を運用し、またWIDE と協調して IEEAF 太平洋回線の運用を行っています。PNWGP と Pacific Wave は共に広帯域な国際および国内のネットワークを、ワシントン、アラスカ、アイダホ、モンタナ、オレゴンの各州や太平洋地域の大学や研究機関、先端的な R&D やニューメディア企業へと接続しています。詳細は http://www.pnw-gigapop.net/ をご覧下さい。

SURFnet はオランダの150を越える高等教育機関や研究所を接続しているネットワークの運用と開発を行っており、国際的な先端的な研究ネットワークの一つです。SURFnet は、オランダ通商産業省、教育機関、研究機関のプロジェクトである次世代ネットワーク Gigaport の実現に責任を持っており、国内の知識基盤の強化を図ります。光およびIPネットワークやグリッドはプロジェクトの主要な要素です。詳細は http://www.surfnet.nl/ をご覧下さい。

IEEAF (Internet Educational Equal Access Foundation) は通信帯域や機材の寄贈を受け、国際的な研究教育コミュニティを提供することを目的とした非営利組織です。IEEAF 太平洋回線は Tyco Telecom によって5年間の IRU として寄贈された二番目の 10Gbps の海底ケーブルによる回線です。最初の回線である IEEAF 大西洋リンクはニューヨークとオランダのグローニガンを接続しており、2002年から運用されています。IEEAF の寄贈は現在17のタイムゾーンに跨っています。詳細は http://www.ieeaf.org/ を参照して下さい。

チェルシオ・コミュニケーションズ(本社:米国カリフォルニア州)は10ギガビット・イーサネットのネットワークインタフェースカードと、プロトコルプロセッサ技術を開発し、実験で用いた T110 10ギガビットイーサネットプロトコルエンジンを製造・発売しています。詳細は http://www.chelsio.com/ をご覧下さい。

SCinet は、SC2004 国際会議の展示場において最先端のネットワークを提供する組織で、全世界のネットワーク組織から集められた技術者により運営されています。

 

用語解説

Internet2 Land Speed Record  インターネットを用いたデータ転送能力を、バンド幅、距離積で評価し、その最高記録である。米国 Internet2 で認定する。カテゴリーは、IPv4、IPv6 について、TCP 単一ストリームと複数ストリームのカテゴリーに分けられる。今回は、IPv4 の TCP 単一ストリームおよび複数ストリームのカテゴリーに対応する実験である。詳細は
http://lsr.internet2.edu/
http://lsr.internet2.edu/history.html

Internet2 Land Speed Record では、11個のルールを定め、記録を認定しています。以下にルールの要約を示します:
ルール1) データ転送は、100km 以上の距離が離れ、少なくとも2個のルータが中間にあるネットワーク上を、10分以上の期間実施することが必要である。また、距離の最大値は 30000km である。
ルール2) データ転送を行うネットワークは、一つ以上の平常運用されている研究教育ネットワーク上を通過することが必要である。Abilene,ESnet,CA*net3,NREN and GEANT はその例である。
ルール3) データ転送は、一対のIPアドレス間を、RFC 793 と RFC 791TCP/IP プロトコルで実施する必要がある。
ルール4) 使用する機器、ソフトウェアは Internet2 の米国メンバーが商品として入手可能か、またはオープンソースソフトウェアであることが必要である。
ルール5) 申請には、認定に必要な全ての情報を添付することが必要である。
ルール6) Internet Land Speed Record には、単一ストリームの TCP/IPv4、複数ストリームの TCP/IPv4、単一ストリームの TCP/IPv6、複数ストリームの TCP/IPv6 のクラスがある。単一ストリームの記録が複数ストリームの従来記録より大きい場合には、単一ストリームは複数ストリームと解釈する。
ルール7) データは、ユーザ空間上のバッファ間で行われ、バッファごとにデータの内容が異なることが必要である。サムチェックなどの方法でデータが正しく伝達されたことを確認することが必要である。
ルール8) 記録は、バンド幅と距離の積で評価する。距離は、端点と、途中のルータ間を、最短距離で結んだ距離の和とする。
ルール9) 省略
ルール10) 新たな記録は、それまでの記録を少なくとも10%凌駕することが必要である。
ルール11) 省略

Internet2  米国の学術ネットワーク組織。米国で200以上の大学、政府と産業界が連携して、次世代インターネット創造を目的とした研究と高等教育のための先進的ネットワーク技術・ネットワーク応用技術の開発を行っています。Internet2 は、インターネットの草創期に在ったアカデミア・産業界・政府の連携を再び現出させます。詳しい活動内容は、http://www.internet2.edu/ を参照してください。

インターネット  広義では、多数のユーザにより共有して使われ、国内・海外のネットワーク通信を実現しているネットワークを意味するが、通常は、ウェブページアクセス、メール、ファイル転送などに広く用いられている TCP を用いたネットワーク体系のことである。

TCP  Transmission Control Protocol の略。ネットワーク上では、エラーの発生、複数の通信の衝突による利用可能バンド幅の減少と不安定性が問題である。これを解決するため、受信側が送信側に受理した確認(アクノレッジ)を返すことにより、送信側が正常に通信が行われたことを確認するとともに、次に送る流量を決定する通信プロトコル。正常なアクノレッジが返らなかった場合には、データの再送により信頼ある通信を実現する。

レイヤ間協調最適化技術  東京大学が研究開発した高速通信最適化方式。従来、通信に対する最適化は、各通信レイヤで行われてきた。例えば、FAST TCP, High-Speed TCP, Scalable TCP はネットワークレイヤにおける通信最適化である。東京大学のデータレゼボワールプロジェクトは、実際の通信線上でのパケットの最適配置や複数ストリーム間協調による新しいタイプの通信最適化方式を提案してきた。今回用いられた最適化は、TCP の流量制御と協調するパケット位置の最適化である。詳細は、同プロジェクトが SC2004 で発表した論文に示されている。論文は
http://www.sc-conference.org/sc2004/schedule/pdfs/pap254.pdf

SC2004  スーパーコンピューティングと、超高速ネットワークに関する国際会議。毎年11月に開催され、この分野では最も高い権威を持っている。東京大学データレゼボワールプロジェクトは、2002年と2004年に論文発表を行った。2004年には、データレゼボワールプロジェクト以外では、JAXA による流体シミュレーションに関する発表、JAMSTEC による地球シミュレータを用いた高速地球シミュレーションが行われた。全体では59件の論文が採録された。

バンド幅チャレンジ  SC2004 に併設して実施される高速ネットワーク利用に関するコンテスト。高速ネットワークをいかに高速、かつ科学技術に有意義に用いたかで競われる。データレゼボワールプロジェクト・GRAPE-DR プロジェクトチームは、2002、2003年に引き続き、3年連続で受賞した。

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