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研究成果「世界最高分解能で超伝導電子の直接観測に成功」研究成果

研究成果「世界最高分解能で超伝導電子の直接観測に成功」

1.発表者

(日本側) 東京大学物性研究所 辛埴教授
        東京大学物性研究所 渡部俊太郎教授
        東京大学物性研究所 木須孝幸博士(現 理化学研究所)
(中国側) Chinese Academy of Science, Chuangtian Chen


2.発表概要

  超伝導を引き起こす電子のエネルギーを世界最高分解能(360マイクロ電子ボルト)の光電子分光で観測することに成功した。その結果、超伝導物質の超伝導機構解明が可能になった。


3.発表内容

  アインシュタインが光電効果等の3つの重要な物理現象を解明してからちょうど100年になるため、今年は国際物理年として、様々な行事が世界中で計画されている。光電効果とは光を物質に当てると電子が出てくる現象である。可視光では生じないが、可視光よりエネルギーの高い紫外線を当てると初めて物質中から電子が生じる。アインシュタインは、この光電効果が、光が量子であることの証拠であるとし、ノーベル賞を受賞している。この原理を用いて、物質中の電子を直接観測する実験手法を「光電子分光」と呼ぶ。この実験手法は、半導体、磁性金属、超伝導体等の先端科学研究の基礎をになっているだけでなく、その原理はCCD等の先端技術にも応用されている。

  本研究は、東京大学物性研究所が学術創成研究費「新しい研究ネットワークによる電子相関系の研究」の支援を受け、中国の「中国科学アカデミー」との2国間の共同研究によって行われた。日本の持つ光電子分光技術と、日中共同開発のレーザー技術を組み合わせ、全く新しい光電子分光法を開発した。この装置により桁違いの分解能(360マイクロ電子ボルト)を得ることができた。これにより、様々な超伝導機構解明が初めて可能になった。超伝導機構を解明することにより、より高温で超伝導になる物質が発見されれば、世界のエネルギー問題は一気に解決される事が予想されている。


新レーザー光源の日中共同開発

  光電効果を起こさせるためには真空紫外領域の擬似連続(準CW)レーザー光が必要であるが、これまで存在しなかった。そのために必要な非線形光学結晶(KBBF)を中国のチェン(Chen)グループが作成した。又、この結晶を基に渡部グループがレーザーを作成した。この新しいレーザー光源は、準CWレーザーとしては世界最高エネルギー(6.994電子ボルト)を達成した新しいタイプのレーザーである。


世界最高分解能

  「分解能」とは、いわば、物質の機能性を解明する「写真の解像度」の様なものである。本研究ではこの「写真の解像度」に相当するエネルギー分解能を上げることにより、これまで知られていなかった物質の機能性を明らかにすることである。超伝導電子の状態(超伝導ギャップ)は通常1ミリ電子ボルト以下の小ささであるが、これを観測するためには非常に高い分解能が必要とされ、これまでの光電子分光では観測不可能であった。この分解能の向上を目指して、世界中の科学者がしのぎを削ってきた。本研究では世界最高の360マイクロ電子ボルトと1ミリ電子ボルト以下の分解能に初めて達することができた。


超伝導機構解明

  本研究では超伝導電子の状態が全くわかっていなかった超伝導体セリウムルテニウムにおいて、その超伝導電子の直接観測に世界で初めて成功した。その結果、これまでの理論(BCS理論)では単純に説明することのできない超伝導機構を持っていることが明らかになった。この様な現状の理論との相違点をあらゆる超伝導体で、研究を進めることにより、普遍的な超伝導機構の解明を行うことができ、その結果、より高温で超伝導を発現する物質の設計が可能になった。


4.発表雑誌

Physcal Review Letter 2月11日
論文タイトル “Photoemission spectroscopic evidence of gap anisotropy in an f-electron superconductor”

論文要旨の日本語翻訳

光電子分光によるf電子系超伝導体のギャップ異方性の解明

我々はf電子系超伝導体CeRu2の超伝導ギャップを研究するために低温・超高分解能のレーザーを励起光として用いた光電子分光(レーザー光電子)を行った。既に知られている一般的な電子の脱出長から期待される大きな脱出深さと非常に高い分解能とのユニークな組み合わせがf電子超伝導体の本質の超伝導ギャップの直接観測をはじめて可能とした。この研究ではCeRu2における異方的な超伝導ギャップの直接的な証拠を示し、d電子とf電子が相互作用しているような超伝導体の内部で実現している異常な超伝導の研究においてレーザー光電子のもつ潜在能力の高さを証明した。


論文要旨原文

We used low-temperature ultrahigh-resolution (360meV) photoemission spectroscopy with a laser as a photon source (Laser-PES) to study the superconducting(SC) gap of an f-electron superconductor CeRu2. The unique combination of the large escape depth expected from the known universal behavior and extremely high-energy resolution has enabled us to directly measure the bulk SC gap of an f-electron superconductor for the first time. The present study provides direct evidence for an anisotropic SC gap in CeRu2, and also demonstrates the potential of Laser-PES in investigating unconventional superconductivity realized in correlated d- and f-electron superconductors.

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