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東京大学工学系研究科・工学部第13回記者会見研究成果

東京大学工学系研究科・工学部第13回記者会見

プログラム

安全・安心な社会と生活を支えるマイクロ化学チップ・テクノロジー

応用化学専攻 教授 北森 武彦

  安全安心な社会と生活の確保が大きな政策課題になっている。食の安全、健康の安心、環境の安全、社会の安心、ひっくり返して何が危険で不安な材料になっているかと言えば、食品の中の化学物質・微生物、体の中の化学物質・微生物、環境中の化学物質・微生物、公共の中の化学・バイオテロが多くの人の脳裏にすぐ思い浮かぶ。これらの脅威には超微量の化学物質と微生物が共通する。

  では、食べる前に、症状が出る前に、環境に入る前に、散布されても吸引する前に、これらの化学物質と微生物を検出できる技術があれば不安は相当軽減できるか、場合によっては完全に取り除くことさえできる。そこで重要な技術が分析技術である。

  しかし、こうした化学物質や微生物ははとんでもなく超微小量で作用するものが少なくない。ppt、ppqと言う濃度、つまり存在割合の単位であるが、仮にそれを長さで表現すればpptは地球25周に対してたった1mmの割合、ppqは太陽系の長半径に対する米粒の割合でしかない。したがって、超微量分析には大きく、複雑で、重く、高価な分析装置が不可欠であり、高度な専門知識と技術を持った技術者でなければ使いこなすことすら不可能である。

  そこで、我々の研究グループ(大学の他に(財)神奈川科学技術アカデミー、NEDOプロジェクト、大学発ベンチャーマイクロ化学技研(株))は高度で複雑な分析システムを小さなガラスチップやプラスチックチップに集積する技術を開発し、一部実用直前のプロトタイプも試作されている。一例を紹介すると、

  • BSEの異常プリオン迅速分析チップシステム
  • 食品アレルギー物質検出チップ
  • 花粉などアレルギー症早期検出チップ
  • ガン免疫診断チップ
  • 環境汚染物質検出チップ
  • 不法薬物検出チップ
  • 細胞マイクロバイオアッセイシステム
  • 大腸菌マイクロバイオアッセイシステム

  これらのマイクロ化学チップあるいはそのシステムは、従来何時間もかかっていた分析が数秒から数分で、その場で、ほんのわずかなサンプルで結果を得ることができる。

  すでに実験システムはマイクロ化学技研(略称IMT社)から販売され、実用プロトタイプも完成している。さらに、この技術は汎用的に数多くの安全安心を保証する新しい工業製品に発展する。そのために、マイクロチップだけでなく、エレクトロニクスようにボードにさまざまなデバイスを配置するシステム技術、実装技術、設計技術の開発が必要である。

  世界的に激しい研究開発競争のなかにあって、すでにリーディンググループの一つであり、欧米各国から学生や研究者が学びに来ており、また各国のプロジェクトとの協力や連携を申し込まれている。この分野の世界のCOEの地位を確立しつつある。

 

化学システム工学専攻 産学連携プログラムCRNaviで大きな成果

化学システム工学専攻 小宮山(宏)研究室 助教授 岡田 文雄

  化学システム工学専攻は、平成15年度より産学連携プログラムCRNavi(Chemical System Engineering Research Navigation)を推進しております。このプログラムは、企業が抱える研究開発課題を大学が受けとめて共同研究テーマを設定する、言わば「どんとこい」型のシステムです。これまでに出光興産、日立化成工業、三菱自動車工業、三菱重工業の4社の参加を得て以下のようなテーマに取り組み、特許出願5件(内外国出願1件)、 論文・学会発阜盾ニいう成果を得ました。また、各社の研究開発を技術的な側面から支援するために20案件のコンサルテーションを行い、技術経営に反映して頂いております。

  • 塩化金属還元気相成長法による金属薄膜成膜技術の開発
  • 環境負荷を大幅に低減する自動車排気触媒の開発
  • 有機-無機ハイブリッド高機能性材料の開発
  • 生産性の高い重合反応プロセスの設計

  特に、自動車排気触媒に関する新技術はnews@nature.com のトピックスで紹介されました。また、本プログラムは学生の教育と研究者の育成にも貢献しております。

 

知識の構造化の具体例:ナノ粒子の自発形成の理解と応用展開

同 助手 野田 優

  知識の膨張に対処する為に、大小様々な「知識の構造化」の取り組みが進んでいる。本会見では、我々が「基板上でのナノ粒子の自発形成」を対象に進めてきた具体的成果を報告する。

  現在、薄膜の多くは原料の原子・分子を各種基板上に供給して作製されているが、その極初期には、しばしば数ナノメータの粒子が基板上に自発的に形成される。ナノ粒子はその小ささ故、その構造は自然現象に大きく支配され、複雑な現象の基礎的理解が不可欠である。我々は、実験的研究を進めるとともに、「平衡論支配の単位構造と速度論支配の集合構造」という観点で、現象を領域化・単純化し、理解を進めてきた。

  一方、この観点にて応用研究も進めてきた。単層カーボンナノチューブは優れた物性を有し、各種応用が期待されているが、肝心の合成技術はまだ発展段階にある。一つに、粒径1~3 nm程度の金属ナノ粒子触媒を如何に基板上に合成するかが重要だが、我々は、コンビナトリアル的な触媒探索法を開発し、一回の実験で高活性な触媒の発見に成功した。また、ハードディスクは重要な情報記録デバイスで記録密度の増大が著しい。特に垂直磁気記録媒体では、様々な構造要件を満たす必要がある。我々は自発的な構造形成過程を組み合わせることで、FePt規則化合金のナノ粒子の高密度作製に成功した。

 

人工制限酵素を用いた巨大DNAの遺伝子操作

先端科学技術研究センター・化学生命工学専攻 教授 小宮山  真

  これまで全く不可能であった“巨大DNAを自在に遺伝子組み替えする手法”を開発し、新たなバイオテクノロジーへの可能性を切りひらいた。ここでキーとなったのは、“巨大DNA(例えばゲノムDNA)を望みの場所で切断する人工制限酵素”の開発である(天然の制限酵素を使用すると、極めて多数の箇所で切断されてしまい。遺伝子組み換えどころではない。そのために従来の遺伝子操作の対象はプラスミドDNAのように小さなDNAに限られていた)。

  新たに開発したDNA切断法の概要は以下のとおりである。まず、2本のペプチド核酸(核酸誘導体:PNA)をDNAに“invasion(侵入)”させ、DNA中の所定位置のリン酸ジエステル結合を活性化する。ここに、Ce(IV)/EDTA錯体(我々が開発したDNA切断触媒)を加えると、活性化部位(ホット・スポット)が選択的に切断される。ホット・スポットの形成に用いるPNAの配列や長さには制限がないので、どのように大きなDNAであっても、必要な場所で正確に切断できる。また、生成した切断断片は、リガーゼを使って外来DNAと自在に結合でき、また、その他の酵素により自在に化学変換できる。したがって、現状のバイオテクノロジーとのマッチングも極めて良好である。天然制限酵素の壁を超えた新たなバイオテクノロジーが展開できるものと期待している。

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