PRESS RELEASES

印刷

大脳嗅皮質でのにおい感覚のゲーテイングの発見研究成果

大脳嗅皮質でのにおい感覚のゲーテイングの発見

1.タイトル:「大脳嗅皮質でのにおい感覚のゲーテイングの発見」

2.発表概要: 目覚めているときには「におい」を感じるが、眠っているときには感じない。このような感覚のゲーテイングは、ほとんどの感覚系では視床が担当するが、視床を経由しない嗅覚神経系では大脳嗅皮質がおこなうことを、私達は発見した。実験結果は、嗅皮質は目覚めているときには嗅球の「におい地図」を読んでいるが、睡眠中は別の情報処理モードに切り替わることを示している。

3.発表内容:
目覚めているときは、周りの光景が見え、音が聞こえ、においが感じられるが、眠っているときには感じられない。これは眠っているときには耳、鼻などの感覚器で検出された外界からの感覚情報が、知覚などに関与すると考えられる高次脳領域へと伝えられる途中で遮断されてしまっているからであると考えられている。この脳がもつ重要な機能のことを「覚醒?睡眠状態に依存した感覚ゲーテイング」という。嗅覚系以外のすべての感覚神経系では、外界からの感覚情報は脳の中心付近に存在する視床という脳領域を経由して高次脳領域へと伝えられるが、この視床が感覚ゲーテイングの役割を担当している。目覚めているときは視床の感覚ゲートは開き、外界からの感覚情報が高次脳領域へと伝えられるのに対し、睡眠中は視床の感覚ゲートが閉じ、感覚情報は高次脳領域へと効率的に伝えられない。ただ、におい感覚情報は、視床のゲートを経由せずに高次脳領域へと伝えられるため、感覚ゲーティングを受けない、もしくは受けにくいのではないかと考えられていた。
私達はネズミを用いた生理学的研究により、におい感覚情報も睡眠時には遮断されてしまう、つまり感覚ゲーティングを受けるということを強く示唆する実験データを得た。嗅覚神経系では、脳底部に存在する嗅皮質の神経回路がゲートの役割を果たし、覚醒?睡眠状態に依存した顕著な感覚ゲーテイングを行っていた。すなわち、目覚めているときには、嗅皮質神経回路は、鼻に吸い込んだにおいによって嗅球の「におい地図」上に生じる活性化パターンを読み出し、それらを処理し、さらに高次脳領域へと伝えることで、においの感覚を生み出しているのに対し、徐波睡眠中はこの「におい地図」を読むことをやめ、異なった情報処理モードに切りかわると考えられる。この研究は、これまでまったく未知であった「におい感覚のゲーテイング」の神経メカ二ズムの解析に新たな道を開くものである。

4.発表雑誌:
Neuron (4月21日号に掲載予定)
論文名:State-Dependent Sensory Gating in Olfactory Cortex
Masayoshi Murakami, Hideki Kashiwadani, Yutaka Kirino, and Kensaku Mori
First Author: 村上 誠祥
Corresponding Author: 森 憲作

5.問い合わせ先:
森 憲作
東京大学、大学院医学系研究科、細胞分子生理学分野

6.用語解説: 
嗅球: 脳の嗅覚神経系の最初の中枢で、鼻の感覚細胞(嗅細胞)からの信号を受け取る。嗅球には、におい分子受容体別に配置された「におい地図」がある。
大脳嗅皮質: 脳底部にある大脳皮質で、嗅球からのにおい情報を直接うけとり統合する。

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる