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廣川信隆大学院医学系研究科長・医学部長研究成果発表研究成果

廣川信隆大学院医学系研究科長・医学部長研究成果発表

Cell掲載論文” Mechanism of Nodal Flow: A Conserved Symmetry BreakingEvent in Left-Right

Axis Determination(体の左右を決めるノード流の発生機構について) 概要

東京大学大学院医学系研究科長・医学部長 廣川信隆

心臓は左側に,肝臓や盲腸は右側に,と私たちの体の左右は厳密に定まっています。私たちの体が出来る過程では,まず背腹軸,続いて頭尾軸が決まり,最後に左右が決まるのですが,その機構は全くわかっていませんでした。私たちは最近,この時期の胚(初期の胎児)の腹側表面のノード(原始結節)で左向きの水流が発生していること,そしてこの水流の向きで体の左右が決定されていることを発見しました。では,なぜ水流は左向きなのでしょう。また,どうやって水流の向きで左側が決まるのでしょう。

私たちはウサギ・マウス・メダカといった様々な脊椎動物の胚を電子顕微鏡および高速度ビデオ顕微鏡で観察しました(図1)。その結果,ノードの表面に生えている線毛が後ろ向き(尾側)に傾いていて,この傾いた軸の周りに毎分600回転程度の速度で時計回りの回転運動をしていることがわかりました。後ろに傾いているので,線毛は右から左に動くときは細胞から遠く離れたところを通り,左から右に戻るときには細胞のすぐ表面をかすめるように戻ります。粘性のため液体は細胞表面付近では動きにくいので,この回転運動によって液体は右から左には効率的に動かされますが,左から右には戻されません(図2)。このように,後ろに傾いた時計回りの回転運動から粘性によって左向きの流れが発生するという機構が明らかになりました。

では,この左向きの流れがどのようにして私たちの体の左右を決定するのでしょうか。私たちは,左側という情報を伝える物質がノードの中に分泌されていて,流れによって左側に集まるのではないか,と考えました。紫外線に反応する標識をつけたタンパク質を培養液に加え,ノードの中央部だけに弱い紫外線をあてて,ノードにゆっくりとタンパク質が分泌される状況を実験的に再現しました。ノード中央部で標識されたタンパク質は左側に集まり濃度勾配が実際にノード流によって出来るのが証明されました(図3)。これらの発見は、左右決定機構の理解に基本的な情報を提供します。

図1図2 図3

図1(左上) ウサギ胚を腹側からみた電子顕微鏡写真。上が頭側。中央の溝状の部分がノードで,向かって右側が将来ウサギの体の左側になる。

(左下)ノード表面の線毛の電子顕微鏡写真。線毛が尾側(むかって右側)に傾いて生えている様子がわかる。

 

図2(中央) 尾側に傾いた回転により左向きの流れが生じる機構。

図3(右) ノード中央(水色)で標識されたタンパク質の分布。ノードの左側(図の上側)に濃く,右側(図で下側)に薄く分布していることがわかる。

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