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単一のナノメートル半導体細線の強い光吸収を観測研究成果

単一のナノメートル半導体細線の強い光吸収を観測

記者発表について

1. 発表日時 平成17年6月13日(月)14時30分~

2. 発表場所 安田講堂4階会議室

3. 発表タイトル  単一のナノメートル半導体細線の強い光吸収を観測

4. 発表者
東京大学物性研究所・助教授 秋山英文
東京大学物性研究所・助手 吉田正裕
東京大学物性研究所・東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程3年 高橋和

5. 発表概要

断面寸法が14ナノメートル×6ナノメートルの極細で高品質のGaAs半導体細線(量子細線)を作製し、そのたった1本の半導体細線の光吸収を測定することに成功した。その結果、直感的な予想に反して、ナノメートル半導体細線がとても強い光吸収を示すこと、したがって応用上も非常に有利であることなどが明らかにされた。

6. 発表内容

 江崎玲於奈先生らの1969年の提案以降、半導体超格子、即ち、異なる種類の半導体をナノメートルの厚みごとに人工的に積層した薄膜構造の研究は急速に進歩し、光エレクトロニクス産業の基盤技術にまで発展した。そして今では、薄膜構造から、ナノメートルサイズの細線や箱の構造にまで興味や技術が広がり、ナノ構造・ナノサイエンス・ナノテクノロジーをキーワードとした研究が基礎・応用両面において世界中で精力的に展開されている。

これら細線や箱のかたちをもつ単一の半導体ナノ構造を作製し、その電気伝導や光吸収などの基本測定を行うことは、ナノサイエンスを代表する研究目標である。また、ナノテクノロジーに向けた応用サイドからの要請も強い。しかし、対象があまりにも小さいために、通常の方法では測定が極めて困難であり、光吸収実験はこれまで誰も成功していなかった。

今回、東京大学物性研究所の秋山助教授・吉田助手の研究グループは、米国ルーセントテクノロジー社・ベル研究所のファイファー博士らのグループ、科学技術振興機構(理事長・沖村憲樹)と共同で、量子細線と呼ばれる極細でかつ高品質のナノメートル半導体細線を作製し、そのたった1本の半導体細線の光吸収を測定することに世界で初めて成功した。

極細かつ高品質の半導体細線の作製には、半導体超格子などナノメートル薄膜の研究で最も典型的なGaAsおよびAlGaAs化合物半導体材料と、分子線エピタキシー装置という結晶成長装置、ファイファー博士が1990年に開発したへき開再成長法という技術、高品質化のために吉田助手が2000年に開発した成長中断アニールという手法を用いる。同グループでは、これらの方法を用い、2002年に断面寸法が14ナノメートル×6ナノメートル(原子の層にして50層×30層)で世界一均一性が高い単一GaAs半導体量子細線を作製した。さらにこれを光導波路と組み合わせた世界一細い単一量子細線レーザーを開発・研究してきた。

今回、同グループはその単一細線レーザー構造を用い、通常の測定法では検出困難である単一の半導体細線の光吸収を測定することに成功した。単一細線レーザーは、光の通り道となる太さ約1マイクロメートル長さ0.5ミリメートルの光導波路の中央に、断面寸法が14ナノメートル×6ナノメートルの半導体細線が組み込まれた構造で、光導波路内における伝搬光と細線との重なりが最大になる様に設計されている。そこで、その光導波路の一端から光を入射し、他端に抜け出てくる光の強度を測定することで、単一細線の光吸収測定を実現した。その結果、この半導体細線に共鳴する波長において、入射した光のエネルギーのうち98%がこの単一細線で吸収され、通り抜けてくるのは残りのたった2%だけとなるほどの強い光吸収が起こることが実験で確かめられた。

断面寸法がナノメートルの半導体細線は、1次元的な構造であることやその体積が小さいことから、レーザーや光変調器などの光デバイスに応用したときに消費電力が小さくなるなどの性能向上に繋がる物理的な効果が予測されている。その一方で、「ナノメートルの細線では、体積が小さくなり過ぎ、光吸収や利得が小さくなりデバイス性能が悪化するのではないか」という直感に基づく懸念もしばしば唱えられてきた。今回の結果は、そのような直感的な懸念を科学的に否定し、かつ、デバイス性能を定量的に予測するためのデータを提供するものであり、デバイス応用の観点においても意義深い。

7. 発表雑誌

米国学術雑誌「Applied Physics Letters」 2005年6月20日
論文タイトル 
“Strong photo-absorption by a single quantum wire in waveguide-transmission spectroscopy”

8. 問い合わせ先

東京大学物性研究所 先端分光研究部門  助教授 秋山英文

9. その他 

 本研究は、国立大学法人・東京大学・物性研究所・運営費交付金、独立行政法人科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業・プロジェクト研究費、文部科学省・科学研究費補助金の研究費を受けて行われた。

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