PRESS RELEASES

印刷

研究成果「神経細胞の生死を決定する時期を発見」研究成果

研究成果「神経細胞の生死を決定する時期を発見」

研究成果「神経細胞の生死を決定する時期を発見」について

1.概 要:
東京大学大学院医学系研究科山口正洋講師、森憲作教授のグループは、嗅覚を担う嗅球の新生神経細胞の生死が、神経細胞が生まれてから、特定の時期(臨界期)に匂い入力があるかないかによって、決められていることを発見した。大人の脳でも新しい神経細胞が生まれていることが知られており、大人の脳が匂い入力のような「経験」によって、神経の回路を作り替えている仕組みを明らかにしたものとして注目される。
近年、神経疾患を神経移植によって治療しようという機運が高まっているが、移植神経細胞にも生死決定の臨界期が存在すると考えられ、今後適切な時期に感覚刺激やトレーニングを加えることで、移植神経細胞の生存率を高め、よりよい機能回復をもたらすことが可能になると考えられる。この成果は、米国科学アカデミー紀要誌に掲載される。

2.内 容:
  脳は大人になると再生しないと考えられてきたが、近年、成体の脳でも新しい神経細胞が生まれていることが明らかになってきた。匂い情報処理を行う嗅覚系の一次中枢である嗅球では、大人になっても新しい神経細胞が生まれ、既存の神経回路に組み込まれている。しかし、どのようなメカニズムで、新生神経細胞が神経回路に組み込まれるかは明らかになっていない。
新しい神経細胞は、すべてが生き残るわけではなく、あるものは死んでしまう。東京大学大学院医学系研究科山口正洋講師、森憲作教授は、大人のマウスの匂い入力を遮断する手法を用い、匂い入力が嗅球の新生神経細胞の生死に与える影響を検討した。新生神経細胞が生まれて14?28日の時期に匂い入力を遮断すると、多くの新生神経細胞が死んで除去された。しかし、これより早い時期、あるいは遅い時期に匂い入力を遮断しても、新生神経細胞の生死に影響は見られなかった。このことから、匂い入力が新生神経細胞の生死を決める「臨界期」が存在することが判明した。この臨界期に匂い入力を遮断すると、新生神経細胞ではカスペースと呼ばれる蛋白分解酵素が活性化され、アポトーシスをおこして細胞死に至ることが分かった。さらに神経細胞の形態解析から、アポトーシスをおこしている新生神経細胞は、ちょうど既存の神経回路とシナプスを形成する時期のものと考えられた。
以上のことから、嗅球の新生神経細胞は、既存の神経回路とシナプスを形成する時期に匂い入力があるかないかによって、その生死が決定されていることが明らかとなった。この成果は、大人の脳が匂い入力のような「経験」によって、作り替えられる細胞分子機構を明らかにしたものである。また、近年、神経疾患を神経移植によって治療しようという機運が高まっている。移植神経細胞にも生死決定の臨界期が存在すると考えられ、今後適切な時期に感覚刺激やトレーニングを加えることで、移植神経細胞の生存率を高め、よりよい機能回復をもたらすことが可能になると考えられる。

3.発表雑誌:
Proceedings of the National Academy of Sciences, USA
(米国科学アカデミー紀要誌)
  掲載日は未定

4.問い合わせ先:
山口 正洋
東京大学大学院医学系研究科
細胞分子生理学教室

5.用語解説:
〔臨界期〕
生物に対して何らかの変化をおこさせる際、変化を効果的におこさせるためには、変化を促す刺激・操作を特定の時期に与える必要がある。その時期のことを臨界期という。
神経科学の分野では、大脳皮質視覚野の眼優位性の形成における臨界期が有名である。日常生活においては、語学、音楽、スポーツなどの修得には、幼児期のトレーニングが重要と考えられているが、これも広い意味での臨界期の例と言える。

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる