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研究成果「トラフグ・クサフグ雑種第2世代の作出」と「トラフグゲノム連鎖地図の完成」研究成果

研究成果「トラフグ・クサフグ雑種第2世代の作出」と「トラフグゲノム連鎖地図の完成」

発表概要:東京大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所では,トラフグとクサフグとの雑種第1世代(F1)同士を掛け合わせ,第2世代(F2)の作出に成功し,順調な成育を確認しました.同時に,トラフグゲノム連鎖地図を完成させ,このほどアメリカ遺伝学会発行のGenetics誌の電子ジャーナルで公表されました.ポストゲノム時代の育種研究に結びつく成果ですので紹介します.

発表内容:別紙

発表雑誌:Genetics誌の電子ジャーナル,冊子体の発行日未定
http://133.11.199.17:8080/-_-http://www.genetics.org/aheadofprint.shtml

問合せ先:
東京大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所
教授 鈴木 譲
http://www.se.a.u-tokyo.ac.jp/

用語解説:
・連鎖地図:同一染色体上の遺伝子は行動を共にする(連鎖する)が,染色体の乗換えによりある割合で分離する.乗換え率が高ければ遠いところに,低ければ近いところにあることから,遺伝子の相対的な位置が分かり連鎖地図ができる.ここでは遺伝子ではなく,多型性(サイズの個体差)を示すマーカーにより作成した.
・トラフグ:ゲノムサイズが小さいことから,ゲノムの解読がイギリス,アメリカ,シンガポールで進められたが,日本の貢献は小さかった.日本では,食用魚として珍重されて,養殖も盛んであり,ポストゲノム研究での日本に対する期待は大きい.

添付資料: 添付の図は,以下のアドレスからダウンロードできます.
http://www.se.a.u-tokyo.ac.jp/japanese/F2-fig.html


「トラフグ・クサフグ雑種第2世代の作出」と「トラフグゲノム連鎖地図の完成」について
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属水産実験所 教授 鈴木 譲 

 東京大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所では,トラフグとクサフグとの雑種第1世代(F1)同士を掛け合わせ,第2世代(F2)の作出に成功し,順調な成育を確認しました.同時に,トラフグゲノム連鎖地図を完成させ,このほどGenetics誌の電子ジャーナルで公表されました.ポストゲノム時代の育種研究に結びつく成果ですので紹介します.

<研究の目的>
  トラフグはゲノムサイズがヒトの約8分の1,約400Mbと,脊椎動物では最も小さいことから注目され,2002年にはヒト以外の脊椎動物としては初めてそのゲノムのドラフト配列解読が発表されました.この成果を優良形質育種に応用するためには,ゲノム連鎖地図を利用した家系間の比較解析が必要です.しかしフグに家系と呼べるようなものがほとんどありません.そこで我々は,トラフグとクサフグとを家系とみなし,それらを掛け合わせて雑種第2世代(F2)の作出する一方,ゲノム連鎖地図を完成させることで,様々な形質を支配する遺伝子の解明をめざすことにしました.

<トラフグ・クサフグ雑種第2世代の作出>
  トラフグは70cm以上にも達する大型のフグなのに対し,クサフグは20cmにも満たない小型のフグです.トラフグ養殖ではエラ虫(Heterobothrium okamotoi)という寄生虫による被害が大きく,養殖場でのホルマリン使用が社会問題になりましたが,クサフグは抵抗性を示します.トラフグは攻撃性が強く,養殖場では歯切りを行っていますが,クサフグは喧嘩をしません.こうした形質がF2では分離してくるはずで,それを分析することで,それらの形質を支配する遺伝子を決定できるものと考えています.
  2003年5月,クサフグ卵にトラフグ精子で人口受精させ,F1を得ました.今年5月,このF1が雌雄とも成熟したため,人工授精によりF2を得ました(別紙の図参照).現在,2組の雌雄から得たF2が順調に成育し,現在約3000個体を飼育しています.

<トラフグゲノム連鎖地図の完成>
  2002年に公開されたトラフグのドラフトゲノム配列は,全ゲノムの95%以上をカバーしているものの,約1万の断片からなるもので,それらをつなぎ合わせて,最終的に染色体数の22に収束させる作業が続けられています.トラフグ全遺伝子の連鎖関係を明らかにする一助として,我々は,200個の多型マーカーを用いて,約4000個の予想遺伝子を含むトラフグ連鎖地図の作成に成功し,以下の論文として発表しました.この地図を他の脊椎動物の遺伝子地図と比較したところ,硬骨魚類の種間では哺乳類の種間に比べてゲノム構造が非常によく保存されていることが明らかとなりました.本地図は,全ゲノム配列の完全解読に大きく寄与するとともに,養殖上有用な性質を支配する遺伝子の同定に必須な基盤となります.さらに,タイやブリなど他の重要な養殖魚のゲノム構造を類推することも可能となりました.
(論文) Wataru Kai, Kiyoshi Kikuchi, Masashi Fujita, Hiroaki Suetake, Yasutoshi Yoshiura, Mitsuru Ototake, Atushi Fujiwara, Byrappa Venkatesh, Kadoo Miyaki and Yuzuru Suzuki: A genetic linkage map for the tiger pufferfish, Takifugu rubripes. Genetics (in press), on line
(主な著者)
甲斐 渉 大学院修士課程2年生,本研究の主担当者
菊池 潔 助手,本研究の発案者で論文の責任者 akikuchi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
末武弘章 助手,本研究の分担者
鈴木 譲 教授,本研究の総括責任者 ayuzuru@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

<本研究の意義>
1.全ゲノム配列完全解読への貢献
この連鎖地図はゲノム断片配列のゲノム上の位置関係を示すもので,今後さらに精度を上げていくことにより全ゲノム配列の完全な解読に大きく貢献します.
2.フグ有用形質を支配する遺伝子の特定
  連鎖地図は,体の大きさ,耐病性,攻撃性などの様々な性質を支配する遺伝子がゲノムのどこにあるか教えてくれます.この連鎖地図と詳細なゲノム情報があることによって,フグにおける様々な形質を支配する遺伝子が解明されるものと期待しています.
  成長が良く,病気に強く,喧嘩をせず,味が良く,無毒で,しかもすべてオスで白子(精巣)がとれる.そんなフグを作るのも夢ではありません.

<東京大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所>
431-0211 静岡県浜名郡舞阪町舞阪2971-4
(7月1日より 431-0214 浜松市舞阪町弁天島2971-4)
TEL 053-592-2821 FAX 053-592-2822
http://www.se.a.u-tokyo.ac.jp/
スタッフ
所長 渡部終五教授(大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻水圏生物工学研究室)
教授 鈴木 譲 
助手 菊池 潔 
助手 末武弘章 
助手 河野迪子

F2作成の模式図画像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

F2には極端な成長差が見られる

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