PRESS RELEASES

印刷

研究成果「白血病は造血幹細胞の高い再生能力を巧みに利用して発症する」研究成果

研究成果「白血病は造血幹細胞の高い再生能力を巧みに利用して発症する」

概 要
造血幹細胞はいろいろな血液細胞を作る能力だけでなく、自分自身を複製する能力も持っている。このため造血幹細胞は高い再生能力を示し、骨髄移植などの再生医療に用いられている。白血病の中には造血幹細胞に遺伝子変異を伴うものが多く見られるが、この変異が造血幹細胞の持つ自己複製能力を著明に増強することが白血病の発症に必須であることが明らかとなった。すなわち、白血病細胞は造血幹細胞の持つ高い再生能力を自己の複製・増幅に巧みに利用しているのである。

内 容
白血病は血液細胞が癌化することにより限りなく増殖を続けるようになった状態と考えられている。最近、白血病細胞のすべてが増殖しているわけではなく、白血病細胞の中のごく少数の細胞だけが白血病性幹細胞として自己複製と限られた分化を繰り返しながら白血病細胞を供給し続けるのだということが明らかになってきている。
しかし、白血病幹細胞の自己複製機構については十分な解析がなされていない。東京大学医科学研究所ヒト疾患モデルセンターの中内啓光教授、岩間厚志講師(現千葉大学大学院医学研究院教授)らのグループは、多くの白血病で異常に活性化している転写因子STAT5が、正常造血において造血幹細胞の自己複製、すなわち再生能力に重要な機能を有することを明らかにした。
次に、純化した造血幹細胞および多能性前駆細胞においてSTAT5を恒常的に活性化し、これらの細胞を移植したマウスにおいて白血病を発症するかどうかを比較検討した。その結果、自己複製能を持つ造血幹細胞を移植したマウスではSTAT5の活性化により100%白血病を発症するが、もはや自己複製能を失った多能性前駆細胞でSTAT5を活性化しても白血病を発症し得ないことを発見した。これは恒常的に活性化したSTAT5により造血幹細胞の持つ自己複製能が増強された結果、過剰な幹細胞の増幅を引き起こし、白血病が発症したことを示している。すなわち、白血病の発症には造血幹細胞の持つ自己複製の機構が必要であることを示すものであり、白血病幹細胞の概念を裏付ける重要な発見である。

発表雑誌
ジャーナルオブエクスペリメンタルメディシン (Journal of Experimental Medicine, ロックフェラー大学プレス)
Yuko Kato, Atsushi Iwama, Yuko Tadokoro, Kazuya Shimoda, Mayu Minoguchi, Shizuo Akira, Minoru Tanaka, Atsushi Miyajima, Toshio Kitamura, and Hiromitsu Nakauchi.
Selective activation of STAT5 unveils its role in stem cell self-renewal in normal and leukemic hematopoiesis.

注意事項
上記雑誌に発表済みのため特になし。

問い合わせ先
東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター幹細胞治療研究分野
教授 中内啓光

用語解説
造血幹細胞:自らを生み出す能力(自己複製能)とすべての血液細胞を産生する能力(多分化能)を併せ持つ細胞で骨の内部にある骨髄や臍帯血の中にわずかに存在する。

がん幹細胞:正常な造血システムにおいて造血幹細胞が常に新しい血液細胞を供給しているのと同様に、がんや白血病構成細胞の中にごく少数の幹細胞が存在し自らは自己複製をしながらがん細胞を常に供給し続ける「がん幹細胞システム」の存在が注目されている。

関連リンク:中内研究室の研究紹介
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/sct/index.html

補足説明
血液細胞が恒常的に産生され続けることは、ヒトが生命活動を営む上で必要不可欠な現象である。毎日数千億個にも及ぶ血液細胞が新たに産生され、古い細胞と入れ替わっている。造血幹細胞は、様々な血液細胞に分化できる能力(多分化能)と自分自身を複製できる能力(自己複製能)を兼ね備えており、この特別な能力を持つことによって一生にわたり血液細胞を供給し続けると考えられている。我々は、以前に骨髄細胞中に数万個に1個という非常に稀な頻度で存在する造血幹細胞を純化することに世界に先駆けて成功し、この造血幹細胞1個から骨髄を再構築できることを実験的に示した。この技術は、造血幹細胞そのものを対象とした研究を可能にし、造血幹細胞特異的な性質の理解に大きく貢献している。
白血病は血液の癌であり、血液細胞の異常な増殖によって特徴付けられる。しかしながら、白血病がどのような分子機序によって発症するかは、長い間様々な議論がなされており未だ解明には至っていなかった。今回、我々は多くの白血病において異常に活性化している転写因子STAT5に着目し、白血病化におけるその役割について検討した。造血幹細胞に活性化型STAT5遺伝子を人為的に導入することにより、STAT5を恒常的に活性化させ、その細胞を致死量放射線照射したマウスに骨髄移植を行った。その結果、移植マウスは移植後1ヶ月後に白血病を発症し死亡した。しかしながら、同様に多能性前駆細胞にSTAT5を恒常的に活性化させても、移植マウスは白血病を発症しなかった。以上のデータは、STAT5が造血幹細胞において恒常的に活性化することによってはじめて白血病化することを明確に証明している。さらに、我々は本研究においてSTAT5が正常な造血幹細胞の自己複製機構にも重要な役割を果たすことを明らかにした。したがって、STAT5の異常な活性化が造血幹細胞の自己複製能を増強し、過剰な幹細胞の増幅を引き起こし白血病化に至るものと考えられる。
  正常な造血システムにおいて造血幹細胞が常に新しい血液細胞を供給しているのと同様に、白血病構成細胞の中にごく少数の幹細胞が存在し自らは自己複製をしながら白血病細胞を常に供給し続ける「白血病幹細胞システム」という概念が提唱されている。今回我々はSTAT5の異常な活性化を引き起こす遺伝子の異常が、独自に自己複製能を獲得するのではなく、正常な造血幹細胞の自己複製能を利用することによって、白血病幹細胞の再生・増幅を維持することを示した。すべての白血病が造血幹細胞における遺伝子の異常によって起こるとは限らないが、これら白血病幹細胞システムの成り立ちの分子機構が明らかにされれば、白血病の治療法を検討する上で有用な情報を提供できるものと期待される。

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる