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研究成果「再生医療実現化に光?東大医科研が組織再生促進方法の開発に成功」研究成果

研究成果「再生医療実現化に光 東大医科研が組織再生促進方法の開発に成功」


発表概要:
低線量放射線照射によって虚血壊死組織の再生を促進することに成功した。さらにこの方法による組織再生では生体内のマスト細胞が壊死組織に動員され、血管新生因子を供給することにより組織修復がなされることが解明された。

発表内容:
幹細胞を利用した再生医療の実現化は21世紀の臨床医学における悲願の一つである。東京大学医科学研究所の服部浩一助教授、ハイズィーッヒ・ベアーテ助手らのグループは、順天堂大学アトピー疾患研究センターとの共同研究により低線量放射線照射による従来にない全く新しい組織再生方法の開発に成功した。
服部助教授らは0.5から2 Gyという低線量の放射線照射によってマウス生体内でマトリックスメタロプロテイナーゼ-9という一種の蛋白分解酵素が活性化されること、またこの酵素の活性化によってマスト細胞を含む各種細胞増殖作用を有する幹細胞因子のプロセシングが誘導されることを発見した。さらに低線量放射線照射によって末梢血中には各種組織幹細胞が動員され、マウス虚血壊死組織中にはマスト細胞の集積が認められた。その後のハイズィーッヒ助手らの実験によってこれらのマスト細胞が大量の血管新生因子を末梢組織に供給することにより、血管及び組織の再構築が促進されることが示唆された。これまで花粉症をはじめとするアレルギー反応を誘発するいわば身体にとって“悪役”と認知されてきたマスト細胞の生体内における新たな役割を解明した点においても本研究は実に興味深いもので、組織再生の新たなメカニズムとこれを活用した組織再生促進方法の可能性について世界に先駆けて提示した点で極めて画期的なものである。
本研究成果は現在、生活習慣病の代表格とされている動脈硬化症を基礎とする虚血性心疾患あるいは血管閉塞性疾患の治療について臨床応用への大きな期待も担っており、文部科学省の再生医療の実現化プロジェクトにも参画している服部助教授らの今後の研究の展開が注目される。本研究成果については近く米医学紙に発表される。

発表雑誌:
ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン (ロックフェラー大学機関誌)
原題:Low-dose irradiation promotes tissue revascularization through VEGF release from mast cells and MMP-9 mediated progenitor cell mobilization
ハイズィーッヒ・ベアーテ1, 秋山晴代1, 大木勇一1, 佐藤弥生1, 奥村 康2, 小川秀興2,服部浩一1
1 東京大学医科学研究所
2 順天堂大学アトピー疾患研究センター

問い合わせ先:
東京大学医科学研究所 再生医療の実現化プロジェクト 幹細胞制御領域
特任助教授 服部浩一

用語解説:
組織幹細胞:自らを生み出す能力(自己複製能)と他系列の異種の細胞を産生する能力(多分化能)を併せ持つ細胞の中で、胚性幹細胞(ES細胞)と異なり、骨髄をはじめとする各種成体組織中に存在するものを指す。Multipotent adult stem cell(MAPC)として知られている。

マトリックスメタロプロテイナーゼ-9:共通のアミノ酸配列を有し、細胞外マトリックスを基質とするマトリックスメタロプロテイナーゼ酵素群に属する金属要求性蛋白分解酵素の一つ。血管基底膜を主に構成するIV型コラーゲン等を基質としている。

マスト細胞(肥満細胞):マストはドイツ語で肥満の意味。日本語で肥満細胞ともいうが、通常の肥満とは無関係である.いわゆるアレルギー反応の主役とされており、IgE抗体と強く結合する受容体(レセプター)をもつ.IgEを結合したマスト細胞がアレルゲンと遭遇すると脱顆粒をおこし,ヒスタミンなどを遊離することで花粉症等のアレルギー症状を誘発する。

添付資料


 


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