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研究成果「抗老化ホルモンKlotho(クロトー)による寿命の延長とその分子機構の解明」研究成果

研究成果「抗老化ホルモンKlotho(クロトー)による寿命の延長とその分子機構の解明」

2005年8月26日
東京大学医学部附属病院 整形外科
テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター病理学
                               

抗老化ホルモンKlotho(クロトー)による寿命の延長とその分子機構の解明

今回、老化を抑制して寿命を延長する作用のある抗老化ホルモン(クロトー)を、(*1)テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターの黒尾誠助教授らのグループが、(*2)東京大学医学部附属病院 整形外科、大阪大学、バンダービルト大学、ハーバード大学のグループと共同で、世界で初めて同定しました。(Science 電子版 8月25日発表)
抗老化ホルモン クロトー蛋白には、体内のインスリンを抑制する作用があり、その抗インスリン作用を介し、老化抑制ホルモンとして働きます。今回の実験では、クロトーを適度に過剰発現するマウスを作成し、平均寿命を通常のマウスよりも約1.2から1.3倍延ばすことに成功しました。
「老化」は、あらゆる成人病に共通の、かつ最大の危険因子です。老化そのものを少しでも抑制・遅延できれば、あらゆる成人病の発症を一括して抑制・遅延できる可能性があり、人類がより長く健康に生きるという夢の実現につながるかもしれません。

【背 景】
老化を抑えて健康に長生きすることは万人の夢です。その夢の実現のためには、まず老化のメカニズムを正しく理解することが必要です。しかし、老化は非常に複雑な生命現象で、今日でもなお、自然科学上最大の未解決問題の一つです。医学的な見地からは、「老化」は動脈硬化、虚血性心疾患、脳卒中、癌、糖尿病、骨粗鬆症、認知症などあらゆる成人病に共通の、かつ最大の危険因子とみなされています。したがって、老化そのものを抑制・遅延することが、あらゆる成人病に対する最も有効な予防策であることに間違いはありません。研究グループは今回、老化を抑制するホルモン(抗老化ホルモン)の存在を世界で初めて証明し、老化のメカニズムの解明に向けて大きな前進を遂げました。

【共同研究の概要】
8年前(1997年)、研究グループは、ヒトの老化によく似た症状を呈する突然変異マウスを樹立して、この原因遺伝子が新規の膜タンパク質であることを同定し、生命の糸を紡ぐギリシャ神話の女神の名前に因んでクロトー蛋白と名付けました(Kuro-o, M. et al. Nature 390, 45-51, 1997)。マウスでクロトー蛋白が不足すると、動脈硬化、骨粗鬆症、肺気腫など様々な成人病が次々と発症して寿命が著しく短縮し、あたかも老化が加速したかのような状態になります。

今回研究グループは、クロトー蛋白を過剰に発現するマウスを作成し、それが通常のマウスよりも長生きすることを明らかにしました。さらに研究グループは、クロトー蛋白の一部が血液中に分泌されて全身を巡り、インスリンの作用を抑制するホルモンとして働くことを解明しました。インスリンは血糖を下げるホルモンとして知られていますが、その他にも多彩な作用があり、代謝全般を制御する重要なホルモンです。インスリンの作用を過度に抑制すると糖尿病になってしまいますが、糖尿病を発症しない程度の適度な抑制は寿命の延長につながることが最近の研究で明らかになりつつあり、クロトー蛋白は、その抗インスリン作用を介して老化抑制ホルモンとして働くと考えられます。
ホルモンの利点は、注射や内服で効く可能性があるという点です。ホルモンが老化を制御するという新しい概念は、老化そのものを抑制する医療に道を開くものと期待されます。

【研究の展望】
最近の研究では、ヒトにおいてもクロトー遺伝子の多型が寿命と関係あること、さらに虚血性心疾患、脳卒中、骨粗鬆症など成人病の発症にも関与することが分かってきました。このことは、クロトーがヒトの老化および成人病の発症をも制御していることを示しています。今後は、この新しい抗老化ホルモンであるクロトーが、ヒトの老化・成人病全般の診断・治療にどのような形で応用できるのか、その可能性を追求する研究が重要になると考えられます。また、クロトー蛋白の機能を詳細に検討することで、老化のメカニズムの解明がさらに前進するものと期待されます。
ただし、寿命を人為的に操作することには、倫理的に重大な問題を含むことを充分認識しておく必要があります。あらゆる生物の寿命は、その長い進化の過程の中で、種の存続に最も適した長さに固定されたものと考えられます。その寿命を人為的に操作すると、思いもよらぬ副作用が出現する可能性も否定できません。クロトー蛋白を過剰発現する長生きマウスでは、子供を作る能力がやや低下している以外に、現時点では顕著な副作用は認められていませんが、将来クロトー蛋白の臨床応用を考える場合、これらの問題点を慎重に考慮する必要があると考えられます。

 

【市場性について】
  現時点では不明ですが、もし将来、クロトー蛋白が老化の治療に応用されることになれば、その市場効果ははかり知れません。

【発表雑誌】
Science 電子版2005年8月25日
論文タイトル「Suppression of Aging in Mice by the Hormone Klotho」
Science 雑誌版2005年9月16日

【注 釈】
(*1) テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター病理学・分子遺伝学
http://www.utsouthwestern.edu/

(*2)東京大学医学部附属病院 病院長 永井良三 所在地:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1
   http://www.h.u-tokyo.ac.jp/ 


《取材に関するお問合せ先》
東京大学医学部附属病院 広報企画部(担当:安倍)
電話:03-5800-9188(直通) E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp 

《本件に関するお問合せ先》
テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター病理学 助教授 黒尾 誠
東京大学医学部附属病院 整形外科 川口 浩

【参考資料】
画像

3歳の誕生日に ? 普通のマウスの平均寿命は2歳前後だが、写真のマウスは、血中のKlothoホルモンの濃度が通常の約2倍に上昇するように遺伝子操作を加えてあるので、そろって3歳の誕生日(ヒトに換算すると約120歳)を迎えることができた。

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