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記者会見「多光子間のもつれ合い状態を持った光の大量生成に成功 」研究成果

記者会見「多光子間のもつれ合い状態を持った光の大量生成に成功 」

1. 発表日時:平成17年9月7日(水) 14:00 ~ 15:00

2. 発表場所:東京大学 理学部1号館 中央棟1階 132号室(第3会議室)

3. 発表タイトル:
「多光子間のもつれ合い状態を持った光の大量生成に成功」

4. 発表者:小林孝嘉(東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 教授)
       三上秀治(東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 大学院生)

5. 発表概要:
量子コンピュータ* 開発の鍵となる多光子間の量子もつれ合い状態* を持った光を、従来の手法よりも桁違いに高い効率で生成することに成功した。これにより、多光子* 間のもつれ合い状態の性質が手に取るようにわかるようになった。今回の成果は、量子コンピュータや量子暗号* の開発のための重要なステップである。
* 用語解説参照。

6. 発表内容:
私たちは、ある種の多光子間のもつれ合い状態を、従来の手法よりも桁違いに高い効率で生成することに成功した。また、得られた状態の性質を完全に特定することに世界で始めて成功した。多光子もつれ合い状態は、量子コンピュータ開発の鍵となるばかりでなく、量子暗号への応用も可能であるため、近年活発に研究が行われている。
もつれ合い状態とは、光子や原子、電子といった極限的な粒子の間に特殊な相関がある状態のことである。従来は二つの粒子間のもつれ合い状態が主に研究されており、より多くの粒子間のもつれ合い状態を効率よく生成することは一般に困難とされてきた。今回、私たちのグループでは、光パラメトリック増幅(用語解説参照)という非線型光学の分野で知られた光学過程を応用することにより、3つの光子間のある種のもつれ合い状態を、従来の手法よりも40倍以上高い効率で生成することに成功した。
従来は別の光学過程で得られた光子の集団に複雑な操作を施すことで多光子もつれ合い状態を生成するのが一般的であった。しかし、この方法では、光子の集団を生成する効率が低いこと、複雑な処理が損失を伴うことにより、生成効率を高めるのには限界があった。私たちはこれまでの常識を覆し、光子を生成する過程として光パラメトリック増幅を採用し、更にレーザー光を弱めた光を増幅される光子として用いたこと、生成された光子に対する処理を簡素化したことにより、従来の手法の欠点を克服し、高効率を達成した。
従来の技術では、多光子間もつれ合い状態は非常に低い効率でしか生成できなかったため、その性質を調べることすら困難であった。今回非常に高い効率での生成が可能になったことにより、その性質を完全に特定することができた。これにより、これまでは間接的にしかその特徴をとらえることができなかった多光子間のもつれ合い状態の性質が、手に取るようにわかるようになった。
もつれ合い状態は、量子コンピュータの開発に不可欠な要素であり、特に大規模な量子コンピュータを作るためにはたくさんの粒子間のもつれ合い状態が必要である。したがって今回の成果は、量子コンピュータ開発のための重要なステップであると言える。また、もつれ合い状態は量子暗号に応用することができることも知られており、通信の分野への応用も期待される。

7. 発表雑誌:Physical Review Letters誌に採択、(http://prl.aps.org/)

8. お問合せ先:東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 教授 小林孝嘉

9.用語解説等
光子:
世の中の物質は原子や電子といった極限的な粒子によって構成されていることが知られているが、光も極めて微弱な明るさを持った光子という「光の粒」によって構成されている。光子は原子や電子と同様に量子力学に従う性質を持つため、我々の常識的な直感に反する数多くの現象を示す。
(下図参照)
画像

もつれ合い状態:
光子のような極限的な粒子の間には、あるひとつの粒子の情報が確定すると、それに伴って別の粒子の情報も決定するといった相関が生じることがある。このような相関状態をもつれ合い状態と呼ぶ。
量子コンピュータ:
光子や原子、電子といった極限的な粒子の性質を利用したコンピュータのことで、従来のコンピュータと全く異なる原理で動作し、桁違いの処理能力を持ちうることが知られている。従来の計算機では数百億年もかかる計算が、量子コンピュータを用いれば数秒で解けると言われており、近年その有用性が注目されている。
量子暗号:
物理学の原理によってその絶対的な安全性が保証されている暗号のこと。未来永劫破られることがないために極めて高いセキュリティをもち、現在実用化に向けた研究が活発に行われている。
光パラメトリック増幅:
ある波長の光を、別の波長の光からのエネルギーを与えることによって増幅させる装置のこと。通常は強い光に対して利用されるが、今回はこれを極めて微弱な光である光子に応用した。

10.添付資料

画像
図:多光子間もつれ合い状態を作るための実験装置。光子を増幅して得られた二光子と、 
   真空が増幅されて生まれた一光子の合計三光子の間に、もつれ合い状態が存在している。

 

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