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記者会見「有機トランジスタでシート型点字ディスプレイの原理実験に世界で初めて成功」研究成果

記者会見「有機トランジスタでシート型点字ディスプレイの原理実験に世界で初めて成功」

東京大学大学院工学系研究科
東京大学国際・産学共同研究センター
合同記者会見

有機トランジスタでシート型点字ディスプレイの原理実験に世界で初めて成功
- 名刺のように軽くて、薄く、ポケットに入れてどこへでも持ち運べる -

発表日時  2005年11月24日(木)13:30~14:30 

発表場所  本郷キャンパス工学部6号館3階セミナー室A

概  要
国立大学法人東京大学(総長小宮山宏)の染谷隆夫(大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター助教授)と桜井貴康(国際・産学共同研究センター教授)らを中心とした研究チームは、有機半導体を用いてシート型点字ディスプレイの作製に成功した。この新型の点字ディスプレイは、シート状のイオン導電性高分子が屈曲する性質を利用して点を上下させ、有機トランジスタと呼ばれる柔らかい電子のスイッチを用いて上下させる点の位置を選択する仕組みとなっている。プラスティックフィルム上にすべての素子が作りこまれているため、薄くて、軽くてかつ曲げることができる。このため、ポケットに丸めて持ち運びのできる携帯可能な点字ディスプレイが実現できるので、将来は、目の不自由な方が電車で気軽に点字ディスプレイで読書できるようになると期待される。また、クレジットカードのように薄いものにも貼り付けることが可能であるため、ポイントカードのポイントを点字で表示させるなどの応用が期待される。

内  容
この度、染谷・桜井らは、有機トランジスタ(用語1参照)とイオン導電性高分子(用語2参照)のアレイをプラスティックフィルム上に集積化することに成功し、世界で初めてシート型点字ディスプレイを試作した。
従来の点字ディスプレイは、ソレノイドやピエゾによるアクチュエータを用いており、回路部分もシリコンなど無機半導体で構成されていた。このため、軽量化や薄型化が困難であった。それに対して、今回は、シート状のイオン導電性プラスティックが電圧を印可すると屈曲する性質を利用したアクチュエータで点字ディスプレイを実現した。さらに、有機トランジスタを使ったことで、スイッチを大面積のフィルム上にアレイ状に配置でき、その結果、薄くて軽い点字ディスプレイを実現できた。
有機トランジスタは、シリコンなど従来の無機材料素子とは違って、低温プロセスでプラスティックフィルム上に形成できるため、軽くて、さらに曲げることができる。また、面積の大きなものを作る場合の製造コストもシリコンに比べて格段に安いと考えられている。この特徴を利用して、有機トランジスタは、無線タグや電子ペーパーの駆動回路などへの応用が期待されている。一方、染谷・桜井らは、有機トランジスタを大面積センサーに応用する研究に取り組み、一昨年はロボット用電子人工皮膚、昨年はシート型スキャナーを実現するなど有機トランジスタを大面積センサーに応用する可能性を示してきた。
今回は、大面積エレクトロニクスの新たな展開として、柔らかいアクチュエータと電気回路が同時にプラスティックフィルム上に集積可能であることを世界に先駆けて示し、有機トランジスタで超薄型の点字ディスプレイを試作して、その動作原理実験に成功した。点字ディスプレイのプロトタイプは、実効表示面積が4x4 cm2、1文字は合計6点(2x3)からなり、全部で24文字分の点字で構成される。有機トランジスタは、ポリエチレンナフタレート(PEN)もしくはポリイミドといったプラスティックフィルムの上に製造されている。チャネル長が20マイクロメートル(?m)、移動度は1平方センチメートル/ボルト秒(cm2/Vs)である。
点を動かすアクチュエータは、イオン導電性プラスティック・シートの裏表両面を金属電極でサンドイッチした構造となっている。金属電極に数ボルトの電圧を印可すると、プラスティック・シートに含まれる金属陽イオンが陰極に移動する。これに伴って水分子が陰極に引き寄せられ、陰極側が膨潤し、その結果、プラスティックシードが屈曲する。アクチュエータは、機械加工によって、短冊状に切り刻まれており、その先端には、プラスティック製の半球がのっている(図参照)。アクチュエータの下にある有機トランジスタから電圧が供給されると、このアクチュエータが屈曲する。そして、点字ディスプレイの最表面を覆っているシリコーンゴム・シート(10ミクロン厚)が、この半球によって点状に突起させる仕組みとなっている。
一方、同グループは、有機トランジスタでメモリ機能を実現することによって動作を高速化したり、回路技術を駆使して信頼性が向上できることも示した。このような結果を踏まえ、今後ますます、有機エレクトロニクスが重要な応用を開拓することが期待される。
新型のポケット点字ディスプレイは、軽く、薄く、そして曲げることができる。このため、モバイル用途に最適の点字ディスプレイであり、ポケットに丸めて持ち運ぶこともできる。この技術を利用すれば、そう遠くない将来、目の不自由な方が、電車で気軽に点字ディスプレイで読書できるようになると期待される。また、クレジットカードのように薄いものにも貼り付けることが容易であり、ポイントカードの点数を点字で表示したり、値札に点字も表示したりすることも可能になると期待される。
一連の研究成果は、電子素子関連で世界最高峰の学会である国際電子デバイス会議(2005 IEEE International Electron Devices Meeting, IEDM2005, Washington DC、December 5 - 7, 2005)で基本的な点字動作を発表し、集積回路のオリンピックといわれる国際固体回路会議(2006 IEEE International Solid-State Circuits Conference, ISSCC2006, San Francisco, CA, February 4-8, 2006)で、有機トランジスタのための先端回路技術の詳細を発表する。

発表論文
1)国際電子デバイス会議 (IEEE/IEDM2005)
講演タイトル “Flexible, Lightweight Braille Sheet Display with Plastic Actuators Driven by An Organic Field-Effect Transistor Active Matrix”
著者 Y. Kato, S. Iba, T. Sekitani, Y. Noguchi, K. Hizu, X. Wang, K. Takenoshita, Y. Takamatsu, S. Nakano, K. Fukuda, K. Nakamura, T. Yamaue, M. Doi, K. Asaka*, H. Kawaguchi, M. Takamiya, T. Sakurai, T. Someya
所属 University of Tokyo, Tokyo, Japan, *National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Osaka, Japan
講演番号 5.1 Session 5: Displays, Sensors, and MEMS ? Organic and Flexible Electronics
発表日時 Monday, December 5, 2005, 1:35pm ? 2:00pm, Georgetown Room
内容梗概 A flexible, shock-resistant, and lightweight Braille sheet display has been successfully manufactured on a plastic film by integrating a plastic sheet actuator array with a high-quality organic transistor active matrix. This is the first demonstration, to the best of our knowledge, to integrate plastic actuators with organic transistor active matrices.

2)国際固体回路会議 (IEEE/ISSCC2006)
講演タイトル “An Organic FET SRAM for Braille Sheet Display with Back Gate to Increase Static Noise Margin”
著者 M. Takamiya1 , T. Sekitani1 , Y. Kato1 , H. Kawaguchi2 , T. Someya1, T. Sakurai1
所属 1University of Tokyo, Tokyo, Japan; 2Kobe University, Kobe, Japan

関連資料
1)国際電子デバイス会議主催者のプレス発表
http://www.btbmarketing.com/iedm/captions/5-1.doc
http://www.btbmarketing.com/iedm/
2)国際電子デバイス会議のホームページhttp://www.his.com/~iedm/
3)国際固体回路会議のホームページhttp://www.isscc.org/isscc/

本研究に関するお問い合わせ先
1)染谷隆夫
東京大学工学系研究科量子相エレクトロニクス研究センター 助教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
http://www.ntech.t.u-tokyo.ac.jp/

2)桜井貴康
東京大学国際・産学共同研究センター 教授
〒 153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1
http://lowpower.iis.u-tokyo.ac.jp/

参考写真
画像
図1 軽くて曲げられる点字ディスプレイ。点字を指で読み取ろうとしているイメージ図。


画像
図2 プロトタイプの組み立て図。内部の仕組みを示すために、一部の構成要素は意図的に剥ぎ取られている。点字ディスプレイは、有機トランジスタ・フィルム、シート状のアクチュエータ、ゴムで表面を覆ったシート状のフレームの3枚を貼り合わせて製造される。

高解像度の画像は国際電子デバイス会議のホームページにて掲載。
http://www.btbmarketing.com/iedm/images/5.1_fig1a.jpg
http://www.btbmarketing.com/iedm/images/5.1_fig1b.jpg

用語解説
1) 有機トランジスタ
炭素・水素からなる有機半導体をチャネル層に用いたトランジスタ(電子のスイッチ)。シリコンなど、無機半導体で作られるトランジスタと比較して、プラスティックフィルム上に作製することが容易で、軽量・薄型、機械的フレキシビリティー、耐衝撃性を有する。また、印刷プロセスとの整合性もよく、大面積に低コストで作製することができる。

2) イオン導電性高分子
電圧をかけると変形(屈曲または伸縮)するプラスティック。駆動電圧が数V程度と低く、また、プラスティックでできているため薄型・軽量化可能といった特徴をもつ。発生力の大きいもの、応答速度の速いものなど、いくつかの種類があり、人工筋肉等への応用が検討されている。

3) 点字ディスプレイ
点字の凹凸を電気的に上下させ切り替え表示する装置。触覚ディスプレイの一種。現在、ピエゾやソレノイドコイルを利用した市販品もあるが、今回、有機トランジスタと高分子アクチュエータをもちいることで軽量・薄型化に成功した。

 

 

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