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記者発表「総合研究博物館 開館十周年特別展示「アフリカの骨、縄文の骨-遥かラミダスを望む」展」記者発表

記者発表「総合研究博物館 開館十周年特別展示「アフリカの骨、縄文の骨-遥かラミダスを望む」展」

開催要旨

このたび、東京大学総合研究博物館十周年記念特別展示として、「アフリカの骨、縄文の骨―遥かラミダスを望む」を開催いたします。

本館では、1996年に改組開館以来、東京大学コレクション展を第20回まで開催するなど、積極的に一般公開に取り組んでまいりました。また、2001年に開館した小石川分館においては、「学誌財」を常設展示するほか、学術と芸術の斬新的なコラボレーション展示にも取り組んで参りました。2002年にはミュージアム・テクノロジー寄付研究部門が設立され、21世紀における博物館のかたちの創成に取り組んでおります。

本展示では、博物館としての原点、「もの」=学術標本における専門性に立ち返りながら、同時に博物館における公開活動の可能性を追求する目的で、人類学とミュージアム・テクノロジー研究のコラボレーション展示を執り行います。展示内容の詳細につきましては、同封の展示概要をご参照いただきますが、趣旨は以下の通りです。

「もの」を扱う特定の専門分野(ここでは人類学)とミュージアム・テクノロジーのそれぞれにおいて、高度なオリジナリティを発揮すると同時に、双方を融合させることにより、展示を用いた情報伝達の効果を実験いたします。実験展示として位置づけた本展について、皆様のご感想とご批評をお待ちしております。

つきましては、以下のとおり記者発表を行います。また、一般公開に先立ち、同封のとおり午後4時30分より内覧会を開催いたしますので、併せてご案内申し上げます。

 

[記者発表]

日 時:2005年11月25日(金)午後4時より
場 所:東京都文京区本郷7-3-1
東京大学総合研究博物館1F「講義室」
出席者:
高橋 進(東京大学総合研究博物館長)
諏訪 元 (東京大学総合研究博物館助教授)
洪 恒夫(東京大学総合研究博物館客員教授)             
  

2005年11月吉日
東京大学総合研究博物館


東京大学総合研究博物館十周年記念特別展示
「アフリカの骨、縄文の骨―遥かラミダスを望む」

■展示概要
本学では、法人化後、「世界の東京大学」を名実共に実現することを全学的な目標と掲げています。そうしたなか、当館においては、世界的水準で誇れる高度なオリジナリティに富んだ博物館活動を推進する必要があると考えています。

そこには博物館として「もの」=学術標本を扱う専門領域ごとに、それぞれのオリジナリティの追求があるでしょうし、博物館活動そのものの取り組みにおけるクリエイティビティが発現されて然るべきでしょう。また、より具体的な一例としては、社会貢献として、学術を「翻訳」し、公開する展示活動自体におけるオリジナリティも問われることでしょう。

こうした背景のもと、このたびの展覧会では、人類学といった「もの」を扱う特定の専門領域とミュージアム・テクノロジーという博物館活動そのものに関わるオリジナリティを追求する専門領域とのコラボレーションとして、展覧会を企画・製作することになりました。そして、双方のもつオリジナリティの融合による新たな効果の創出、これを今回の「実験展示」の試みと位置づけてみたいと考えています。

展示としては、現在の人類学における最先端の発見とそれを巡る研究現場として、ラミダスとヘルト(これらについては後述)という世界的に知られる人類化石に焦点をあてました。また、伝統のある本学ならではの学史的な重要発見、学術の積み重ねとして、当館収蔵の姥山貝塚出土の古人骨とその背景にある膨大なコレクション、そしてそのキュラトリアル・ワークを取り上げています。展覧会名の「アフリカの骨、縄文の骨」とは、これら展示物の選定に基づいています。一見つながりのなさそうな両者の間に、博物館現場における有機的な関わりを、展示というメディアを用いた三次元空間でいかに効果的に表現するか。本展覧会は、その挑戦といっても良いでしょう。

■主要展示物
最大の「目玉」を特定するならば、それはラミダス関連の、実質未公開のレプリカ標本や現地調査映像になります。これらの標本は、世界的にその展示を待望されているといっても過言ではありません。エチオピア国外では、世界初公開されるものです。

アフリカの骨―ラミダスの初公開展示
1. ラミダスの模式標本(模式標本=種を定義づけするときに指定する標本)
2. ラミダスの子供下顎の標本(既に発表されているラミダス標本を代表する標本の一つ)
3. ラミダス発見の現場映像展示

1924年に猿人アウストラロピテクスが初めて発見され、その50年後に有名な「ルーシー」(全身の40%からなる猿人化石)が発見されました。ルーシーとその関連標本群から、ようやくアウストラロピテクスの全貌が知られるようになり、「400万年」の人類史が語られるようになりましたが、まさに人類発祥を思わせる過去にまでは到達しておらず、そうした状況が1990年ごろまで続いていました。こうした知識の限界を打ち破る、アウストラロピテクス段階以前の人類祖先であろう最初の画期的な発見が、1990年代前半のラミダス(440万年前)の発見です(1994年9月22日、全国主要紙一面掲載)。その後の10年ほどで、さらに古い人類化石が発見され、人類の系譜が一気に600万年前まで溯りました。

これら400万から600万年前の人類化石は、ラミダスの全身にわたる未発表の新標本群をも含め、その全貌に関する研究は現在継続中です。これらに関する研究発表は、目下、人類進化学の分野において、世界的な注目のもとにあります。そうしたなか、本館では、ラミダスの化石にとどまらず、570万年前のカダバ、100万年前のダカ人、16万年前のヘルト人など、多数の重要な人類化石の研究に関与しています。2003年と2004年には、エチオピア国立博物館から実物標本を一時借用し、マイクロCT調査を実施し、先端的な研究の一翼を担っています。

実物標本は、研究上極めて重要な場合にだけ、特例的に国外に持ち出されることはありますが、移動と公開は常に破損と紛失の危険を伴うため、一般には許可されません。また、専門的立場からも一般には推奨できないことであります。したがって、貴重な人類化石は、エチオピア国立博物館の収蔵室にて厳重に保管されており、母国でも一般公開はされていません。また、ラミダスの化石については、未発表の化石標本とともに現在も研究が継続中であるため、関連研究に従事している限られた研究者にだけ公開されているという状況です。そうした事情から、一般公開となると、レプリカですらエチオピア国立博物館において、数年前から展示されているに過ぎません。したがって今回の展示は、エチオピア国外では文字通り世界初めての公開の場となります。

アフリカの骨―ヘルト人、ダカ人
1.最古の「現代人」化石、ヘルト人
2.100万年前のアフリカの原人化石、ダカ人

ヘルト人とは、2003年に世界最古の「現代人」化石として発表された、16万年前の化石頭骨です(2003年6月12日、全国主要紙一面掲載)。この化石もまた、研究途上であるため(エチオピア人研究者を中心に包括的な報告書が作成されている最中)、本年初めて公開されています。ヘルト人の頭骨化石は、本年3月から9月まで行われた愛知博・アフリカ共同館のテーマ展示の一部として、レプリカが展示され、これがエチオピア国外初の公開の場となりました。愛知博の展示(本館協力)は、エチオピア国立博物館に移設される予定ですが、平行して、本展においては、CT調査の過程で作製したレプリカ標本を展示公開します。

ダカ人とは、アフリカでは希少な100万年前ごろの原人化石で、原人から新人へいたる進化の道筋、アフリカとユーラシアにおける人類進化の軌道を考える上で重要な、やはり研究途上の化石頭骨です。この標本についても、エチオピア国外では初めての公開であり、本館において推進されたCT調査に基づいたレプリカ標本を展示します。

縄文の骨―標本データベース
当館収蔵の日本の古人骨コレクションは、縄文時代から近代まで、各歴史時代を網羅する標本群として収集され、国内外でも有数のもので、その数は10000体分を超えるとも言われています。これら標本のうち、特に縄文時代人骨と弥生時代人骨について、関連する情報を集約した、標本保管運用体制の言わば「決定版」を目指したデータベースの作製を、現在精力的に進めています。

縄文の骨―縄文人とヘルト人の比較
従来から保存しているコレクションのキュラトリアル・ワークの充実によって、様々な応用研究が展開できます。ここでは、ヘルト人と縄文人を比較して考える展示を設けてみました。

縄文の骨―骨を読み解く
古人骨と人類化石を扱った実践的な人類学研究と、より博物館的なキュラトリアル・ワークとは、実際には共通の眼力、素養、専門性のもとにあるものです。本展では、そうした共通した専門性を来館者に実感していただく目的で、通常は資料室の中でさえ並べて見る機会が少ない、専門的にも入門的にも学び取るものが多い古人骨標本展示を目指しました。

縄文の骨―姥山貝塚より
今回の展示では、古人骨コレクションの中から、姥山貝塚の標本群を取り上げています。姥山貝塚は千葉県市川市にある、日本を代表する縄文時代の貝塚遺跡の一つです。東京帝国大学人類学教室が、1926年に、当時最先端の発掘調査を実施し、縄文時代の竪穴住居址が初めて完全に発掘されるなど、目覚しい成果が知られています。その中の著名な発見の一つが、一つの住居址から発見された5個体分の縄文時代人骨になります。縄文時代の家族構成を考える参考事例として特に有名な標本群です。これらの人骨は、土坑に埋葬した形跡が無く、床面に直接横たわっていたため、多くの研究者から、一世帯の家族がほぼ同時になんらかの事故死をした可能性が指摘されています。今回は、この標本群の実物を、臨場感あふれるかたちで展示公開いたします。本標本群のこうした実物展示はおそらく初めてのことと思われます。それと同時に、これらの家族論に関する新たな視点の研究展開も紹介いたします。

■オリジナリティの融合
本館の展覧会では、今までも、大学の研究の成果を形にして展示することを行ってきました。しかし、日々進化していく大学の研究活動そのものを展示化するという今回の試みは、従来のスタイルとあきらかに違うものだと考えています。それを、人類学研究とミュージアム・テクノロジー(展示の企画・デザイン)のオリジナリティが合わさることで実現する――これが本展の大きな特徴ともいえるのではないでしょうか。

展示の具体的な内容に少しふれますと、一見つながりのない、アフリカの化石と日本の古人骨、これらを単に並べるだけでは、雑多な個々の展示コーナーの羅列になりかねません。また、「骨」といったモノトーンな対象物を、果たして統合された三次元的な全体展示として組み上げていけるのか、それは大きな課題でありました。展示をつくることは、標本資料、情報を編集する企画作業からスタートします。ここから、人類学研究とミュージアム・テクノロジー研究という二者のコラボレーションが始まっています。企画から製作まで、一貫した流れの中で二者の融合による新たな価値や資源の創出を試み、専門性の高い学術活動の「翻訳」に挑戦したのが、今回の展覧会であります。

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