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記者会見「時空間MRF技術を応用した次世代画像センサーの開発」研究成果

記者会見「時空間MRF技術を応用した次世代画像センサーの開発」

2006年3月2日
東京大学
オムロン株式会社

 

時空間MRF技術を応用した次世代画像センサーを開発

東京大学とオムロン株式会社(本社:京都市下京区、代表取締役社長:作田 久男、以下オムロン)は、共同研究により、重なりや隠れに強くかつ広範囲な交通流を高精度に計測可能な次世代画像センサーを開発しました。

本画像センサーは、任意形状をした移動物体の任意の動きを安定してトラッキングすることができ、画像上での移動物体同士の重なり(オクルージョン)に対しても頑健であるという特徴を持っています。
これらの特徴により、高速道の対向複数車線交通量の同時計測や交差点での分岐率算出が、1台のセンサーで可能となります。例えば、高速道路や自動車専用道路では、路側や中央分離帯にカメラを設置することにより、上り下り両方向の交通量を同時計測することが可能です。また、交差点全景を1台のビデオカメラで撮像した画像中の個々の車両を任意の動きを正確に追跡できるため、交差点における全方向別の交通量(分岐率)を同時計測することもできます。
さらに本センサーは、利用するカメラの仕様や設置条件の影響を受けにくいため、既設の監視用ITVカメラと接続することにより、多機能な計測を付加することが可能となります。従来、交通流計測用に広く利用されてきた超音波センサーやループセンサ等の局所型センサーは、1つのセンサーで1車線の交通量しか計測することができませんでした。この点、画像センサーは空間型センサーと呼ばれ、広がりを持つ空間を同時に計測できる長所があります。しかし、従来の画像センサーでは、車両が直線的に動くことが仮定される、またはオクルージョンに対応できない、あるいは利用するカメラの仕様や設置条件等に制約が多いため、分合流部を含む複数車線の交通量等を同時に計測することに限界がありました。また、交差点における方向別の交通量を計測(推定)する場合には、各流入・流出ごとにセンサーを設置する必要がある上、全流入・全流出の組合せとしての全方向別交通量(分岐率)を直接計測することができませんでした。
今回開発した画像センサーを適用すれば、利用するカメラ条件の制約が少なく、かつ6車線交通量の同時計測や交差点分岐率算出が可能となります。本画像センサーは、共同研究におけるこれまでの検証で、晴・曇、降雨・降雪、昼・夜、雪解けの照り返し等の様々なフィールド画像を用いた評価を行った結果、6車線交通量計測で±5%以内、交差点の各流入・流出ごとの交通量計測で±10%、交差点の分岐率算出で±5%以内の精度を達成しました。今後、国内外の道路・交通管理者、民間事業者へのシステム導入を進め、さらなるフィールド評価を重ねていきます。

■ 新しい交通管制、カーナビサービスへの期待
欧米では、道路・交通管理者が設置するセンサーとして、地面に埋め込むタイプのループコイル型センサーが主流でした。しかしながら、今後は導入コストや管理コストの問題から、画像センサーへの置き換えが進むと予測されています。特にセキュリティ監視上の要請から画像取得は必須要件となっているため、画像センサーへのシフトは必定のことと考えられます。
日本においても、従来、道路・交通管理者が配置したセンサーで取得した情報による渋滞情報提供が行われてきました。これまでは、超音波センサーが主流でしたが、画像センサーのような多機能計測が可能なセンサーの導入により、機能の集約化による管理・維持コスト削減への期待が高まっています。
また、欧米では現在既に、国や州の道路・交通管理者が配置したセンサーから取得したデータと民間企業が配置したセンサーから取得したデータとを合わせることにより、民間企業が広範囲にわたる交通情報提供を行っています。本画像センサーは、このような用途において高精度かつ低コストな計測を行えるシステムとして期待されます。
日本でも、自動車会社による自社車両ユーザーへの交通情報提供が始まっています。今後は、国内でも規制緩和が進めば、民間企業センサーを配置した独自の情報提供や情報の相互利用が進むことが予測されます。また、最近の情報提供サービスは、交通シミュレーターを用いたミクロな渋滞予測を行うまでに進化しつつあります。近い将来、幹線道路だけでなく、都市圏の道路網における詳細な交通情報提供、渋滞予測、ルートガイダンスのサービスへと発展すると考えられます。道路が複雑に交差する都市圏の道路においてこれらのサービスを提供するには方向別交通量情報の取得が必須であるため、本画像センサーの有効性が発揮できると考えています。
さらに、本画像センサーは、交差点近くのビル窓の内側から交差点を撮像する環境があれば簡単に交通量データを計測することが可能です。これまでの検証実験では、カメラを箱で囲うなど室内灯を遮光することにより、外部環境に設置した場合と同等の計測精度を確保できることを確認しています。このことは、道路・交通管理者や民間事業者の設置工事の負担を軽減し、装置管理を容易にすると期待されます。

■ 新しい信号制御への期待
本画像センサーの開発により、従来は複数台のセンサーを設置して計測せざるをえなかった各交差点での流入・流出ごとの交通量を、本画像センサー1台で計測することができるようになり、設置工事費と機器管理費の大幅削減が可能になるとともに、分岐率という今まで取得できなかったデータが直接算出できるようになります。このことにより、よりきめの細かい予測型の信号制御が可能となると考えます。
すなわち、従来のような交通の激しい幹線道路を優先制御する系統制御だけでなく、複雑に交差し、各方向の交通量が時々刻々と激しく変化するような道路において、各方向の青時間配分を交通状態に応じて細かく制御するようなネットワーク型の信号制御が可能となります。
  具体的には、分岐率の計測により、現行の信号制御システムで行っている事前の交通量調査によって決定している複数の信号制御パラメータが自動的に予測可能となり、交通需要に応じて動的に信号制御パラメータを変更する制御が可能となります。さらに、計測した分岐率データは、交差点の信号パラメータの見直しデータとしても利用できるとともに、交通シミュレーションへの入力データとして利用することにより、パターン制御を行っている交差点の最適な信号制御パラメータの評価・決定もできるようになります。

■ 時空間MRFモデルとは
本画像センサーは、時空間MRFモデルという技術に基づいています。時空間MRFモデルは、画像上で重なった移動物体を分離し、正確に追跡することができる技術で、2000年に東京大学生産技術研究所助教授の上條俊介が考案しました。
人間は、画像上で重なった移動物体を容易に別のものと認識することができますが、コンピューターに認識させる画像認識の技術としては実現が困難で、従来から盛んに研究が行われてきました。時空間MRFモデルは、移動物体を画像ブロックの集合体ととらえ、その動きの違いを確率モデルとして評価し、各画像ブロックが属する移動物体を最適化して判定することにより、異なる移動物体を分離する技術です。

従来の多くの画像認識技術は、パターンマッチングによる移動物体追跡を行っているため、向きや遠近による見え方の違いや重なりにより一部隠される(オクルージョン)ことによる見え方の違い等が発生し、膨大なバリエーションに対応するアルゴリズム、学習データやモデルを構築することが困難でした。
これに対し、時空間MRF技術では、このような学習データやモデルを一切仮定せず、各移動物体の動きの違いに着目した時空間画像の領域分割という概念を用いています。これにより、移動物体の種類(車両や歩行者)、向き、動き、オクルージョンに依存せず、安定して高精度な追跡が可能となりました。

例えば、信号機の上(5~6m)の高さから交差点全景を1台のカメラで斜めに俯瞰する場合、車両同士の重なりを避けることはできず、さらに交差点では、直進・右折・左折や右左折待ちでの停止等、車両の動きがまちまちになります。
時空間MRF技術を用いれば、時空間画像の領域分割という概念のみでこれらの車両を統一的に追跡することが可能であり、交差点の分岐率を直接算出可能なセンサーとして、世界で初めて実現することができました。
 
詳しくは下記URLをご参照ください。音声付のプロモーションムービーも公開しています。
http://kmj.iis.u-tokyo.ac.jp

■ 時空間MRF応用技術コンソーシアムについて
時空間MRF技術については、財団法人生産技術研究奨励会TLOを通じて特許出願しており、外国を含めて徐々に特許権が登録されつつあります。上條研究室では、コンソーシアム形式で当該特許やプログラム等の著作権を複数の企業へライセンスすることにより、応用システム開発を目的とした共同研究を行っています。
本画像センサーは、その具体的な成果として位置づけられるものであり、東京大学とオムロンが共同で、機器組み込み用途への利用を目標として、アルゴリズムの最適化を行うことで、アルゴリズム実行上必要となるメモリの大幅な削減を行うとともに、高速演算用の専用LSIを開発しました。この開発成果を利用することにより、機器組み込み用途で求められる画像処理ユニットの小型化、低消費電力化を実現し、実用化に到ったものです。

■ 今後の展開
本画像センサーは、2006年2月に、交差点の分岐率を直接算出可能な新たなセンサーとして、オムロンから国内の交通管理者への販売を開始しました。今後さらに国内外の交通・道路管理者や民間の交通情報提供事業者からの要望があれば、順次センサーの提供を行っていきます。
また、本技術コンソーシアムでは、時空間MRF技術を応用した事故検出の開発も完了しており、今後の共同研究を通じて、今回開発した画像センサーへ事故検出のアルゴリズムを搭載することにより、交通流計測や分岐率算出だけではなく、事故検出といった交通流監視機能も同時に可能なセンサーの高度化を進めていく予定です。
さらに、時空間MRF技術のセキュリティ展開として、原子力発電所をはじめ、空港、駅、研究所や工場等、高度なセキュリティ監視が求められている重要施設の屋外広域監視システムへの展開も計画しています。
特に今回開発した専用LSIを、監視カメラやディジタルビデオレコーダ(DVR)等へ搭載することによる、ローコストで高性能なインテリジェントセンサの開発も計画中であり、交通、セキュリティをはじめとした幅広い分野での応用を進めていきます。

■お問合せ先
東京大学生産技術研究所 上條研究室
目黒区駒場4-6-1(駒場リサーチキャンパス)

オムロン株式会社
ソーシアルシステムズ・ソリューション&サービス・ビジネスカンパニー
<報道関係>
企画室 経営企画部 [担当:宮崎]
港区虎ノ門3-4-10
TEL 03-3436-7022
<一般のお客様>
交通ソリューション事業部 技術部 [担当:内藤]
滋賀県草津市西草津2-2-1
TEL 077-565-5474

 

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