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記者会見「繊維を変える新素材『スライドリング マテリアル』」研究成果

記者会見「繊維を変える新素材『スライドリング マテリアル』」

繊維を変える新素材『スライドリング マテリアル』
-1ナノメートルの分子の滑車が生み出す様々な機能-

日  時: 2006年 7月 7日(金)14:00~15:00
場  所: 東京大学学生部会議室(安田講堂4階)

発 表 者:

伊藤 耕三  東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
梶原  浩  アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社
代表取締役社長
中島 幸介  中伝毛織株式会社 代表取締役社長

概  要:
  東京大学、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)および中伝毛織(株)の3者は共同で、東京大学伊藤研究室で発見された高分子の架橋に関する原理とそれを利用した分子(スライドリング マテリアル)を、スーツなどに使われている通常の毛織物に組み込んだところ、耐洗濯性、伸長性などについて著しい効果が同時に得られることを発見しました。応用製品はまもなく量産体制に入り、来春からアパレル対応の製品として発売することが決定しております。

発表内容: 
ひも状の巨大分子である高分子は、繊維や衣料品、プラスチックやゴム、生活用品や食品など我々の身の回りで頻繁に使われている材料です。この高分子材料の特性を変える代表的な方法として、ひも状の高分子を化学的に結合(架橋)し、ネットワークを形成することがよく行われています。高分子の架橋は、古くは1839年のグッドイヤーによる架橋ゴム(タイヤへと発展)に端を発し、現在まで盛んに利用されてきました。最近、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 伊藤研究室では、高分子(ポリエチレングリコール)と環状分子(シクロデキストリン)から構成されるすかすかのネックレス状分子をまず作成し(図1a)、次に環状分子同士を架橋することによって(図1b)、図1cのように架橋した部分が自由に動く高分子材料(環動高分子材料、スライドリングマテリアル)を世界で初めて合成することに成功しました。本構造の基本特許は、東京大学TLOを通じて出願され日米中ですでに成立しています。ちなみに、このネックレス状の分子はポリロタキサンと呼ばれており、大阪大学大学院理学研究科の原田明教授らによって15年ほど前に世界で初めて合成されたものです。
  架橋点が自由に動けると、高分子材料の力学特性は実に大きく変わります。図2に模式的に示したように、従来の高分子材料では架橋点が固定されているために、外部からの張力が最も短い高分子に集中して順々に切断され、容易に破断することになりました(応力集中)。これに対して、環動高分子材料では、高分子は架橋点を自由に通り抜けることができるため、張力を分散し均一に保つことができます(応力分散)。架橋点の分子が滑車のように振舞うことから、この協調効果を滑車効果と名付けました。
  東京大学、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)および中伝毛織(株)の3者は共同で、このネックレス状の分子を、毛織物に組み込んだところ、耐洗濯性、伸長性などについて著しい効果が同時に現れることを発見しました。通常、織物の耐洗濯性は、繊維同士を化学的に架橋するなど、いわば繊維を「固定」することによって実現しているのですが、それによって逆に伸長性やナチュラル感が失われるという欠点がありました。これに対して今回は、分子の滑車を導入することにより、繊維本来の風合いを損なわず耐洗濯性と伸長性を両方同時に実現できたというのが、これまでと大きく異なる特徴になっているわけです。『スライドリング マテリアル』で加工した毛織物についてはまもなく量産体制に入り、来春からアパレル対応の製品として発売することが決定しております。
  図1のような幾何学的に拘束された分子集合体は、トポロジカル超分子と総称されており、現在世界中で盛んに研究されている新しい研究分野です。私どもは、超分子科学の研究成果を、身近な毛織物に世界で初めて応用することに成功しました。

問合せ先:
アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 高岡 正信(事業開発本部長)
中伝毛織株式会社 山本 時夫(常務取締役)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 伊藤 耕三(教授)

図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1.a)分子ネックレス(ポリロタキサン)、b)8の字架橋、c)環動高分子材料の模式図。

図

 

 

 

 

 


図2.a)通常の架橋とb)環動高分子材料の架橋の比較。

 

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