PRESS RELEASES

印刷

研究成果「造血幹細胞の冬眠を制御する機構」研究成果

研究成果「造血幹細胞の冬眠を制御する機構」

1.タイトル: 「造血幹細胞の冬眠を制御する機構」

2.概要:
造血幹細胞は「多能性」と「自己複製能」の両方の性質兼ね備えた細胞で、骨髄中で分化と自己複製を繰り返すことによって、一生にわたり全ての血液細胞を供給し続ける。毎日膨大な数の血液細胞が産生されるにもかかわらず、大部分の造血幹細胞は骨髄中のニッチと呼ばれる場所で分裂せずにじっとしていることが最近の研究から判っている。しかし、骨髄のニッチに存在する造血幹細胞がどのような状態にあるか、その詳細は造血幹細胞の数が少ないため解析に充分な細胞数を得ることが難しく、不明であった。我々はごく少数の細胞でも確実に免疫染色することができる方法を開発し、造血幹細胞に発現する細胞膜分子や細胞質タンパクの局在やリン酸化の状態を詳しく解析することによって骨髄中の造血幹細胞の状態が線虫やリスなどの冬眠状態の機構と深く類似していることを明らかにした。

3.発表内容
生体内において造血幹細胞は骨髄中のニッチと呼ばれている場所で細胞周期が止まっている状態で存在し、数週間から数ヶ月に一度分裂する。造血幹細胞のこのような状態は冬眠様の状態に似ていると注目されていたが、造血幹細胞は数が少ないためその分子機構は不明であった。我々はごく少数の細胞を正確に免疫染色して解析する手法を開発し、マウスの骨髄細胞中にごく少ない頻度で存在する造血幹細胞を取り出して種々の刺激を加えて解析を行った。その結果、サイトカイン刺激に反応して起こる細胞表面の脂質ラフトの凝集が増殖や死といった細胞の運命決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに骨髄ニッチには造血幹細胞における脂質ラフトの凝集を防ぐ機構が存在し、この機構によって造血幹細胞は細胞周期が止まった状態で維持されると考えられた。興味深いことに、この状態の造血幹細胞内では冬眠状態にある線虫やリスと非常に良く似た機構が作動していた。実際、脂質ラフトの凝集を薬剤で強制的に阻害してサイトカイン刺激を加えることにより、試験管の中で冬眠状態を再現できることを示した。造血幹細胞は一生にわたって血液細胞を供給するという重要な役割を持つ細胞であることに加え、自己複製能を持っているため、種々の変異が蓄積しやすく、癌化を起こす危険性が他の体細胞に比べて高い。こういった幹細胞を体内で安全かつ長期にわたって保存するためには、冬眠状態を活用することは合目的的であると考えられる。幹細胞を静止期に維持する機構の解明は、細胞治療、移植医療の推進だけでなく、他の組織幹細胞やがん幹細胞の研究にも大いに貢献すると期待される。

4.発表雑誌
欧州分子生物学機構雑誌(European Molecular Biology Organization Journal)
論文タイトル
Cytokine signals modulated via lipid rafts mimic niche signals and induce hibernation in hematopoietic stem cells

筆頭著者(山崎聡)は株式会社リプロセル研究員
7月20日17時(欧州時間)にオンラインで発表予定
日本時間では7月21日午前1時

5.問い合わせ先:
東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター
高次機能研究分野 中内啓光 教授

 

 

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる