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記者会見「運動習得は片腕と両腕では大違い-片腕運動と両腕運動では異なった脳内過程が運動学習に用いられることを解明-」研究成果

記者会見「運動習得は片腕と両腕では大違い-片腕運動と両腕運動では異なった脳内過程が運動学習に用いられることを解明-」

1.発表日時:平成18年10月6日(金) 14:00 ~15:00

2.発表場所:東京大学教育学部010教室(地下1階)

3.発表タイトル:「運動習得は片腕と両腕では大違い ?片腕運動と両腕運動では異なった脳内過程が運動学習に用いられることを解明?」

4.発表者:野崎大地(東京大学大学院教育学研究科 助教授)

5.発表概要:
左腕だけで行う片腕運動に、右腕の運動を付け加えても、左腕の動作そのものに外見上ほとんど影響はありません。ところが運動学習の観点からみると、もう一方の腕の運動を付け加えて両腕運動とすることには大きな意味があることが分かりました。全く同じ腕の運動学習に、片腕運動と両腕運動で異なった脳内過程が使われていることを我々は明らかにしたのです。このため、同じ右腕(もしくは左腕)が、片腕だけで動かす場合と両腕一緒に動かす場合では、あたかも一部異なった人格を持っているかのように振る舞うのです。*本研究はクイーンズ大学(カナダ)神経科学センターのスコット教授、クァーツァー博士との共同研究であり、日本学術振興会の特定国派遣事業および科学研究費補助金「基盤C」の補助を受けて行われているものです。

6.発表内容:
  ボート競技や水泳等、両腕を同時に動かす必要があるスポーツでは、動作を分解して、まずは片腕運動としてスキルを体得しようとする方法がとられることがあります。このとき「右腕が憶える」という言い方をしますが、文字通り「右腕が憶える」のであれば、片腕運動として獲得したスキルは確かに両腕運動時にも十分に活かされるはずです。この予想が正しいかどうか、我々はロボットアームを用いた行動実験により検討しました。
被験者はロボットアームを装着し、前方のターゲットに向かって左手を伸ばす運動(リーチング運動)を行いました(図1)。このときロボットアームによって力場を課し、左手の移動速度に比例した外力が腕に加わるようにすると、最初は左手の軌道は大きく曲げられてしまいますが、何回も試行を繰り返すと、元の直線的な軌道を取り戻します。この力場の存在下でリーチング運動を行うための適切な指令を筋に送るスキルを獲得したのです。
我々は片腕運動で獲得したこの左腕のスキルが、両腕運動中の左腕には高々70%しか活かされないことを明らかにしました(図1B)。運動学習効果が部分的にしか転移しないのは、両腕を動かすために生じる脳の負担増のせいでしょうか?次に、我々は両腕運動時の左腕のみに力場を課し、はじめから両腕運動中に左腕がスキルを獲得するようにしました。この場合も、両腕運動として獲得したスキルは片腕運動中の左腕には70%程度しか転移しませんでした(図1C)。したがって、運動学習効果の部分的転移は、両腕運動に伴う脳の負担増や注意の分散とは無関係です。むしろ、左腕運動の学習が図のような片腕運動用、両腕運動用の脳内過程によって支えられていると考えることによって自然に説明することが可能です(図2)。なお、右腕を対象とした実験でも同様な結果が得られました。
我々は、さらに、(1)両腕運動時の左腕は運動学習効果をすっかり忘れ去っているようにみえるにもかかわらず、片腕運動時の左腕がなおも運動学習効果を保持しているという奇妙な状況を実現できること(図3A,B)、(2)従来適応することが極めて困難とされていた逆方向を向いた二つの力場を、それぞれの力場に片腕運動、両腕運動を割り当てることによって、同時にしかも容易に学習できること(図3C)、を示しました。これらの結果は図2Bに示すような運動学習の図式が妥当であることを意味しています。
以上から、スキルは「右腕もしくは左腕が憶える」のではなく、正確には「片腕運動用の右腕(左腕)が憶える」「両腕運動用の右腕(左腕)が憶える」ということになります。この成果は、両腕運動時に必要なスキルを一旦分解して片腕運動として獲得しようとするスポーツや楽器演奏などで用いられる練習方法や、麻痺した腕のリハビリテーションを両側性の運動によって促進しようという両側性トレーニングを行うことに、神経科学的に一定の根拠を与えると同時に、その効果には上限があることを示唆しています。また、一見同じようにみえる片腕運動時と両腕運動時の右腕もしくは左腕の運動が、行動レベルで本質に異なっていることを示した最初の報告でもあります。運動学習の観点からすると、片腕だけで動かすか、両腕を一緒に動かすかで、同じ腕が一部異なった人格を持つかのように振る舞うのです。

7.発表雑誌:
Nature Neuroscience(ネイチャーニューロサイエンス)のオンライン版に
10月8日(日)午後1時(アメリカ東部夏時間)に掲載予定

8.問い合わせ先:
野崎大地(東京大学大学院教育学研究科 助教授)

9.添付資料:
図1, 2, 3

図1



図2


図3

 

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