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「セラミックスの変形メカニズムを解明 -50年来の謎、ついに解き明かすー」研究成果

「セラミックスの変形メカニズムを解明 -50年来の謎、ついに解き明かすー」

1.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科・総合研究機構(幾原雄一教授、柴田直哉助教らのグループ)の研究チームは、米国グループなどと共同で、これまで不明であったセラミックス変形の起源となる原子配列のずれた構造(転位)の観察に成功し、50 年来謎とされてきたセラミックス変形の原子メカニズムを世界に先駆
けて解明した。本研究により、セラミックスの加工性向上、延性セラミックスの開発、超高強度セラミックスの創製など、セラミックスの強度を自在に操る技術への展開が期待できる。本研究の成果は、4 月6 日(金)付の米国科学雑誌「サイエンス」で発表される。

2.発表内容:
一般に、セラミックスは硬く、強度、耐摩耗性、耐食性などに優れているが、金属材料と比べると著しく加工し難い材料(難加工性)であり、その応用に限りがあった。一方、セラミックスでも金属材料と同様に原子配列が局所的にずれる(転位)ことによって変形することが予測されていた。しかし、これまで、セラミックスの“転位”の原子構造が不明であったため、その変形メカニズムは明らかにされていなかった。すなわち、セラミックスの場合、この“転位”の移動が金属などに比べて大幅に制限されるため、変形に対する抵抗が格段に大きいと考えられるが、構造が複雑なセラミックスでは転位に伴う変形の原子メカニズムはよくわかっておらず、セラミックスの難加工性の起源は長く不明であった。
今回、東京大学の幾原雄一教授・柴田直哉助教らの研究グループは、米国オークリッジ国立研究所などと共同で、最先端の走査透過型電子顕微鏡(STEM,Scanning Transmission Electron Microscope)により、セラミックス転位の原子構造観察に初めて成功した。本研究で観察したアルミナセラミックス(Al2O3)は、自動車部品、電子基板など多くの工業製品として広く使われている一般的なセラミックスである。アルミナセラミックスは、アルミと酸素からなる金属酸化物であり、転位の運動を考える上ではアルミと酸素の原子配列の理解が鍵となる。今回のSTEM 観察により、転位におけるアルミ原子と酸素原子を識別して観察することがはじめて可能となり、その特異な配列構造が明瞭に観察され、転位に伴う複雑な原子移動のメカニズムが明らかとなった。このブレークスルーにより、セラミックスの変形特性や強度特性を原子レベルから自在に制御する技術の確立が期待できる。すなわち、非常に硬くその加工や変形が困難であったセラミックスも、結晶の方位や変形条件(温度、加工速度)を制御することにより、自在に変形することが可能であることを示している。
本研究で用いた原子を直視識別できる電子顕微鏡法は、次世代の材料開発に必須の計測技術としてその重要性が広く認識されはじめているが、日本ではまだ東京大学をはじめ数箇所しか導入されていない。この世界的な動向をいちはやくキャッチした中部経済連合会は、セラミックスや材料関係企業の集中する中部地区へ本技術を導入することを計画している。本技術は、名古屋市にある財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)内にナノ構造研究所として設置することが急ピッチで進められており、産業界の期待が極めて大きいことを示している。このように、産業界においても最先端の計測技術を高度に応用した新しい材料開発体制の構築が、今後のものづくり産業にとって重要であることが認識されつつある。

3.問い合わせ先:
幾原 雄一教授
柴田 直哉助教
東京大学大学院工学系研究科・総合研究機構

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