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「赤痢菌の巧妙な感染戦略を発見―宿主細胞の延命を図る(多くの病原性細菌に対する抗菌薬開発に期待)」研究成果

「赤痢菌の巧妙な感染戦略を発見―宿主細胞の延命を図る(多くの病原性細菌に対する抗菌薬開発に期待)」

JST(理事長 沖村憲樹)と東京大学医科学研究所(所長 清木元治)は、赤痢菌が腸管での感染を維持するために、腸上皮細胞の代謝回転を抑制していることを発見しました。
腸上皮細胞は、絶えず新生と死を繰り返し、数日以内で入れ替わる代謝回転(ターンオーバー)を行っています。多くの病原細菌は腸の上皮細胞を感染の足場として利用しているため、この腸上皮細胞のターンオーバーは、病原体の感染初期に足場となる細胞を除去するシステムとしても重要と考えられていました。
本研究では、赤痢菌が腸の上皮細胞内へ分泌するIpaBたんぱく質注1)が、上皮細胞のAPCユビキチンリガーゼ注2)の抑制因子であるMad2L2たんぱく質注3)と結合し、細胞周期の進行を遅らせることで、上皮細胞のターンオーバーを抑制していることを明らかにしました。
これまでの研究では、赤痢菌は感染初期に腸管にある孤立リンパ小節のM細胞から粘膜下へ侵入して周囲の上皮細胞へ感染を拡大することが分かっていました(図1)が、これに対し本研究では、赤痢菌は分裂期の未分化な腸上皮細胞へも感染し、IpaBとMad2L2の結合を通じて菌の増殖に不可欠な上皮細胞の寿命を延長させていることを明らかにしました。
全世界では赤痢菌に毎年1億人が感染し、数十万人の乳幼児の命が奪われています。多剤耐性を示す赤痢菌注4)も出現し、有効なワクチンもいまだなく、新しい治療薬の開発が望まれている現状です。本研究では、赤痢菌が感染を成立させるために、宿主の細胞周期へ干渉しそれを遅らせる因子(サイクロモデュリン)を分泌することを明らかにしました。これにより、このサイクロモデュリンを標的とする薬剤を開発することが、赤痢菌の治療薬として有効であることを示唆しています。また、これと同様に病原性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラ、ピロリ菌などのサイクロモデュリンを有する、多くの病原細菌の駆除に有効な抗菌薬の開発にもつながるものと期待されます。
本研究は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「免疫難病・感染症等の先進医療技術」研究領域(研究総括:岸本忠三)の研究テーマ「病原細菌の粘膜感染と宿主免疫抑制機構の解明とその応用」(研究代表者・笹川千尋 東京大学医科学研究所細菌感染分野 教授)の一環として、笹川千尋(同上)と祝弘樹(同 大学院生)らによって行われています。今回の研究成果は、米国の科学雑誌「Cell」電子版に2007年8月23日(米国時間)に公開されます。

<お問い合わせ先>

笹川 千尋 
東京大学医科学研究所 細菌感染分野

瀬谷 元秀
独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 
研究推進部 研究第一課


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