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「鏡の左右逆転 1種類ではなかった」研究成果

「鏡の左右逆転 1種類ではなかった」

1.発表概要:
  鏡に映ると、左右が反対になって見える。この「鏡映反転」は、これまで、1つの現象だと考えられてきた。しかし、自分の鏡映反転と文字の鏡映反転は、それぞれ、別の理由で起きる、別の現象だということがわかった。

2.発表内容:

 鏡に映ると、左右が反対になって見える。だれもが知っている身近な現象である。
  ところが、この「鏡映反転」が起こる理由については、プラトン以来2千年以上にわたり、ノーベル賞受賞者を含む多くの学者が議論をつづけてきたにもかかわらず、いまだに定説がない。
  これまでは、人の鏡映反転と文字の鏡映反転は、同じ1つの現象だと考えられてきた。しかし、高野陽太郎(東京大学大学院人文社会系研究科・教授・心理学)は、これらが別の現象だと考えれば、それぞれ、どういう理由で生じるのかがうまく説明できることを明らかにした。
  発表予定の論文では、この2種類の鏡映反転がそれぞれ別々の理由で生じることを、さまざまな実験データによって立証した。たとえば、鏡に映った自分と相対したとき、左右が反対になっているとは感じない人が、じつは3~4割もいるのである。このような人がいることは、鏡映反転についての文献には一度も記されたことがない。新しい発見である。ところが、さらに興味深いことには、このような人たちも含めて、百パーセントの人が、鏡に映った文字は、左右が反対になっていると感じるのである。この違いは、人の鏡映反転と文字の鏡映反転が別々の理由で生じることをはっきりと物語っている。

 人の鏡映反転は、左右を判断するとき、視点を変えることが原因で生じる。たとえば、左手に腕時計をして、鏡のまえに立ったとする。実物の腕時計については、自分自身の視点から「左にある」と判断する。一方、鏡に映った腕時計については、鏡に映っているほうの自分の視点から「右にある」と判断する。ここで「左右が反対になっている」という印象が生じるのである。
  実験では、つぎのことが明らかになった。「左右は反対になっていない」と感じるひとは、鏡に映った腕時計についても、自分自身の視点から「左にある」と判断するのである。実物の腕時計も「左にある」のだから、「左右は反対になっていない」と感じるわけである。
  それにたいして、文字の鏡映反転は、鏡に映った文字を、記憶している文字と比較するところから生じる。文字を鏡に映すためには、文字を書いた紙を裏返しにして、鏡に向けなければならない。このとき、左右が(物理的に)反対になる。鏡は、その反対になった文字をそのまま映しだすので、自分が知っている文字の形と比べると、「左右が反対になっている」と感じるのである。
  紙を裏返すとき、ふつうは、上下はそのままにして、左右が反対になるような裏返しかたをする。しかし、左右をそのままにして、上下が反対になるようにひっくり返せば、鏡には逆さになった文字が映ることになり、「上下が反対になっている」と感じるはずである。実験では、じっさいに、左右ではなく、上下が反対になって見えるという結果になった。
  また、おぼえている文字の形と比較するのだから、知らない文字の場合は、「左右が反対になっている」という印象は生じないはずである。実験では、ロシア語のキリル文字を鏡に映した。ロシア語を学んだことのあるひとは「左右が反対になっている」と感じるが、ロシア語をまったく知らないひとは「左右が反対になっている」とは感じないことが明らかになった。

3.発表雑誌:
  Quarterly Journal of Experimental Psychology
(『季刊実験心理学』 イギリスで発行されている心理学の学術雑誌)
  2007年11月発行予定(掲載雑誌からの解禁指定はありません。)

4.問い合わせ先:
  高野陽太郎(東京大学大学院人文社会系研究科・教授)

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