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チンパンジーの覚醒時における脳波計測に成功研究成果

チンパンジーの覚醒時における脳波計測に成功

1.タイトル:「チンパンジーの覚醒時における脳波計測に成功」

2.発表概要:
チンパンジーの脳活動を、麻酔を用いず安全に計測することに世界で初めて成功しました。本研究の成果により、行動の観察だけでなく、脳活動によるヒトとチンパンジーの比較研究が可能となりました。

3.発表内容:
東京大学21世紀COE「心とことば-進化認知科学的展開」の長谷川寿一教授(東京大学大学院総合文化研究科)らと林原類人猿研究センター(岡山県玉野市)および京都大学霊長類研究所の共同研究グループは、このたびチンパンジーの覚醒時における脳活動計測に世界で初めて成功しました。
ヒトが持つ様々な認知能力の進化的背景を探るため、従来は系統上ヒトに最も近いチンパンジーとヒトの行動を比較する研究が行われてきましたが、行動の基盤である脳活動については、麻酔下のチンパンジーを対象とした研究以外は存在しませんでした。これは脳活動計測に必要な安静状態を保つことが麻酔なくしては実現困難なことに起因しています。しかしながら正常な認知活動を捉えるためには、覚醒状態での計測が必要不可欠です。
そこで同研究グループは、長時間の安静状態が保てるようにチンパンジーを訓練した上で脳活動計測を行いました。計測の対象となったチンパンジーは、林原類人猿研究センターのミズキ(メス、11歳)です。ミズキの頭皮上に電極を貼り、音を繰り返し聞かせているときの脳波を記録しました(添付資料図)。ヒトの脳波研究では、同じ音が繰り返し提示される中で稀に提示される逸脱音(周波数や長さが異なる音)に対して特徴的な波形が観測されることが知られています。この波形は、環境の変化に対する自動的な知覚メカニズムを反映していると考えられています。覚醒時のミズキに対して同様の手続きで脳波を計測したところ、逸脱音に対してヒトと類似した特徴を持つ波形が得られました。この結果は、チンパンジーもヒトと同様の知覚処理を行っている可能性を示しています。
  本研究の成果は、ヒトとチンパンジーの脳活動と認知メカニズムを直接比較する手法の妥当性を示すものであり、知性の進化に関する新たな研究分野を切り開く大きな第一歩と言えます。

4.発表雑誌:
  PLoS ONE(日本時間で2008年1月17日に掲載予定)
参照URL: http://www.plosone.org/
[論文タイトル] Auditory ERPs to stimulus deviance in an awake chimpanzee (Pan troglodytes): Towards hominid cognitive neurosciences ([和訳] 逸脱音にたいする覚醒時のチンパンジーの事象関連電位:ヒト科における認知神経科学に向けて)

5.注意事項:
  公表日時に制限あり。
2008年1月16日午前10時(日本時間)より解禁。

6.問い合わせ先:
03-5454-6786(東京大学21世紀COE「心とことば-進化認知科学的展開」)
  担当者:長谷川寿一(東京大学大学院総合文化研究科・教授)
      上野有理(東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会特別研究員)

7.用語解説:
脳波:神経活動によって生じる脳内の微弱な電位のゆらぎを頭皮に貼り付けた電極によって計測したもの。横軸が時間、縦軸が電位(単位はμV)の波形グラフとして記録される。
事象関連電位:特定の事象(光や音を知覚する、手を動かすなど)に合わせて脳波の中に生じる電位のパターン。対象となる事象が生じた際の脳波を加算平均することにより背景脳波を取り除き、特定の事象に関連した波形のみを取り出すことができる。

8.添付資料:
下記URLから利用可能。
http://ardbeg.c.u-tokyo.ac.jp/images/press/mizuki1.jpg

 


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