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「眼形成不全の原因遺伝子とそのメカニズム」研究成果

「眼形成不全の原因遺伝子とそのメカニズム」

1.タイトル:「眼形成不全の原因遺伝子とそのメカニズム」

2.発表概要:
  私たちは、カエル胚の発生生物学と比較ゲノム学を組み合わせることにより、眼形成不全の原因遺伝子同士の密接な関係を見いだしました。

3.発表内容:
  私たち人間にとって、眼は外環境の情報を受け取るための極めて重要な感覚器官です。何らかの原因により眼が正常に形成されない場合には、日常生活において様々な困難が生じると考えられます。ヒトにおいて、先天的に小さな眼しか形成されない小眼球症や、眼が全く形成されない無眼球症などの眼の形成不全は、およそ5000人に1人の割合で認められます。これまでに、これら眼の形成不全の原因遺伝子として、Otx2、Sox2、Raxなどを含む遺伝子群が同定されてきましたが、それらの遺伝子がどのような関係をもっているのかについては明らかではありませんでした。私たちは、カエルの胚を用いた実験発生学と、脊椎動物の比較ゲノム学を組み合わせることにより、Otx2とSox2が協調的にRaxの発現を制御するという、眼形成不全の原因遺伝子間の新たな関係を見いだしました。
  脊椎動物間でRax遺伝子周辺のゲノム配列を比較したところ、転写開始点のおよそ2000塩基対上流に、遺伝子をコードしていないにも関わらず高度に保存された配列が存在していることがわかりました。この配列はRax遺伝子についてのエンハンサー活性をもち、また、Otx2とSox2タンパク質がこの配列に結合することが確かめられました。レポーター活性化実験を行ったところ、Otx2とSox2タンパク質は、その両方が存在しているときにのみ、Rax遺伝子レポーターの転写を活性化するという、相互依存関係をもっていることがわかりました。さらに、Otx2とSox2タンパク質はタンパク質間で生化学的に相互作用をすることがわかりました。発生段階において、この密接な遺伝子間の関係に乱れが生じると、正常な眼の発生が妨げられ、小眼球症や無眼球症などの眼の形成不全が引き起こされるのだと考えられます。
  今回の研究は、カエルを用いた基礎研究が、近年蓄積した様々な動物のゲノム情報を通して、私たち人間の病気のメカニズムの解明に貢献できるということの一つの例を示している、と私たちは考えています。生命科学における基礎研究と応用研究は、ゲノム情報の充実により結ばれ、その価値を高め合っていくという側面をもっているのかもしれません。
  本研究は東京大学大学院総合文化研究科の大学院生である團野宏樹氏(日本学術振興会特別研究員)と東京大学の浅島誠副学長らの研究グループによってなされたものです。

4.発表雑誌:
Hiroki Danno, Tatsuo Michiue, Keisuke Hitachi, Akira Yukita, Shoichi Ishiura and Makoto Asashima. "Molecular links among the causative genes for ocular malformation: Otx2 and Sox2 coregulate Rax expression". Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (米国科学アカデミー紀要)

5.注意事項:
  特にありません。

6.問い合わせ先:
  東京大学 大学院 総合文化研究科 浅島研究室 團野宏樹

7.用語解説:
  比較ゲノム学:様々な生物のゲノム情報を比較解析することによって、遺伝子やエンハンサーの探索同定及び、生物の進化の歴史を明らかにすることなどを目指す学問。

 エンハンサー:転写調節タンパク質が結合することにより、遺伝子の転写を制御するようなDNA上の領域。

8.添付資料:
  PNAS (米国科学アカデミー紀要) Early Editionのサイト:
    http://www.pnas.org/papbyrecent.shtml

 

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