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多重式蛍光分子による膜近傍の水素イオン濃度マッピング研究成果

多重式蛍光分子による膜近傍の水素イオン濃度マッピング

1.タイトル:「多重式蛍光分子による膜近傍の水素イオン濃度マッピング」

2.発表概要:
新規に設計・開発した多重式蛍光分子を利用することで,水中における膜構造近傍の水素イオン濃度を,ナノメートルスケールの空間分解能でマッピングすることに初めて成功した.

3.発表内容:
細胞膜に代表される膜構造の内部および近傍では,水素イオン濃度(pH)が位置連続的に変化しており,この濃度勾配と膜の機能には密接な関係があると考えられている.ところが,このような空間は全体でも数ナノメートル(1ナノメートル = 10?9 m)サイズの領域であり,その中で位置を細かく制御してイオン濃度を調査することは不可能であった.
これに対し本研究では,水素イオン濃度と極性を同時に測定できる多重型の蛍光分子を世界で初めて開発し,ナノメートルスケールの空間分解能を伴って水素イオン濃度をマッピングすることに成功した.図には,実際に使用した18個の蛍光分子の構造を示す.この分子は周辺の水素イオン濃度によって蛍光の強さが変化し,また周辺の極性によって蛍光の波長(色)が変化する.膜構造の外部ほど極性が高く,逆に内部ほど極性が低いことが知られており,膜構造に導入した蛍光分子の蛍光強度と色を同時に測定することで,位置特異的な水素イオン濃度の計測が可能になる.18個の蛍光分子は,それぞれわずかずつ親水性・疎水性が異なっており(図中の位置調節部位),これにより膜構造内での存在位置を変化させることができる.以上より,水素イオン濃度と極性に関する情報を18個の蛍光分子から集めることによって膜近傍における水素イオン濃度のマッピングができる.
本研究では,膜としてせっけん分子が創る「ミセル」を用い,その近傍における水素イオン濃度のマッピングを行った.中性のせっけん分子を用いた際には,ミセルの中心に近づくほど水素イオン濃度は単調に減少していたが,陰イオン(アニオン)性のせっけん分子を用いた際には,部分的に水素イオン濃度の上昇(約40倍)が認められた.このような膜構造近辺の局所的な水素イオン濃度の上昇こそ,生体内におけるエネルギー産生のメカニズムであると考えている.今後は本研究で確立した手法を利用して,生体膜近傍における水素イオン濃度のマッピングを行っていきたい.

図

 

4.発表雑誌:
“Multiplexing Sensory Molecules Map Protons Near Micellar Membranes”
Seiichi Uchiyama, Kaoru Iwai, A, Prasanna de Silva
Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 4667?4669

*本論文は少なくとも2人の審査員に “Very Important Paper” であると評価され,VIP 論文として認定されました(編集部によればこのような評価を受けるのはすべての論文の5 % 以下であるとのことです)。さらに本研究のイメージ図は掲載号(2008年47巻25号)の表紙を飾りました。また、この研究内容は Nature 誌の Research Highlights 欄(“Molecular mapping”, Nature, 2008, 453, 701)(2008年6月5日号)やアメリカ化学会の会員誌である Chem. & Eng. News 誌の Science & Technology Concentrates 欄(“Sensor Measures Protons, Polarity”, Chem. Eng. News, 2008, 86(22), 44?45)(2008年6月2日号)においても紹介されました。

5.注意事項:
特にありません。

6.問い合わせ先:
東京大学大学院薬学系研究科 薬化学教室
助教 内山聖一

7.用語解説:
特にありません。

8.添付資料:
http://www9.plala.or.jp/Seiichi_Uchiyama/figure.ppt
(文中の図です)
http://www3.interscience.wiley.com/journal/26737/home/cover/2008_47_25.html
(Angew. Chem. Int. Ed. 誌の表紙です)

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