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記者会見「過眠症ナルコレプシーの新規関連遺伝子の発見」研究成果

記者会見「過眠症ナルコレプシーの新規関連遺伝子の発見」

1.発表日時:2008年 9月26日(金)11:00~12:00(受付10:30~)

2.発表場所:東京大学医学部教育研究棟 13階 第8セミナー室
          (本郷キャンパス:文京区本郷7-3-1)

3.発表タイトル:「過眠症ナルコレプシーの新規関連遺伝子の発見」

4.発表者:東京大学大学院医学系研究科 教授 徳永 勝士
        東京大学大学院医学系研究科 助教 宮川 卓

5.発表概要:
  代表的な過眠症であるナルコレプシーの遺伝的要因を解明するために、ゲノム全域を探索し、CPT1B遺伝子およびCHKB遺伝子の近傍に位置するSNP(一塩基多型)がナルコレプシーに関わることを発見した。

6.発表雑誌:
   Nature GeneticsのAdvanced Online Publication(9月28日掲載)

7.注意事項:
   報道の解禁:日本時間9月29日(月)午前2時 新聞は9月29日朝刊

8.問い合わせ先:
  東京大学大学院医学系研究科 教授 徳永 勝士
 
  東京大学大学院医学系研究科 助教 宮川 卓

9.発表内容
  ナルコレプシーは日中の著しい眠気、情動脱力発作(カタプレキシー)、入眠時幻覚および睡眠麻痺(金縛り)を主な症状とする代表的な過眠症である。日本人における有病率は0.16%~0.18%と報告されている。ナルコレプシーの発病には、ストレスなど環境素因に加え、遺伝的要因が関わっていると考えられている。我々はこのナルコレプシーの遺伝的要因を解明するために、50万SNP(一塩基多型)を用いてゲノム全域を探索した(ゲノムワイド関連解析)。対象として日本人の患者(ケース)222例と健常者(コントロール)389例のゲノムDNAを用いた。50万SNPの遺伝子型を決定した後、統計検定を行い、ナルコレプシーに関連することが期待される新規候補SNPを30個選別した。次に、新たな日本人サンプルセット(ケース:159例、コントロール:190例)を用いて、これら新規候補SNPが再度ナルコレプシーとの関連を示すか確認するために再現性研究を行った。その結果、22番染色体(22q13.33)のCPT1B遺伝子およびCHKB遺伝子の近傍に位置するSNP(rs5770917)がナルコレプシーと強い関連を示すことを確認した。この日本人の研究結果から、SNP(rs5770917)のリスクとなる変異がある場合は、ない場合に比べて発症のリスクが約1.8倍になることがわかった。これに加え、SNP(rs5770917)が韓国人のナルコレプシーにも関係していることも明らかにした。次に、SNP(rs5770917)が近傍に位置するCPT1B遺伝子およびCHKB遺伝子のmRNAの発現量に影響を与えるか解析した。その結果、リスクとなる変異を持つ人は、持たない人に比べてこの二つの遺伝子のmRNAの発現量が低下することがわかった。
CPT1B(carnitine palmitoyltransferase 1b)は主たる脂肪酸の酸化経路であるβ酸化に関わる律速酵素であり、脂肪酸から生成されたアシル-CoAとカルニチンを結合させ、アシルカルニチンとする。脂肪酸はアシルカルニチンの形でミトコンドリアの内膜を通過し、マトリックスに移動する。これまでにβ酸化やカルニチンシステムが睡眠の制御に関わるといった報告がなされている。そのため、CPT1B遺伝子の発現量の低下が睡眠の制御に影響する可能性が考えられる。
CHKB(choline kinase beta)はコリンの代謝に関わる酵素である。コリンは、神経伝達物質のアセチルコリンや脳循環・代謝改善薬の一つであるCDP-コリンなどの合成材料である。そのため、CHKB遺伝子の発現量の低下がこれら脳の活動に重要な働きを示す物質の合成量を変化させる可能性が考えられる。
今後、CPT1BまたはCHKBの機能を補う物質が、ナルコレプシーの治療薬となることが期待されるため、さらなる検討を進めていきたい。平行して、CPT1B遺伝子およびCHKB遺伝子が他の睡眠障害にも関わるか検討したい。

 

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