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タンパク質を膜透過させる装置の構造変化の解明研究成果

タンパク質を膜透過させる装置の構造変化の解明

1.タイトル:「タンパク質を膜透過させる装置の構造変化の解明」

2.発表概要:
  東京大学(総長 小宮山 宏)、京都大学(総長 松本 紘)は、あらゆる生物に保存された生体膜を越えたタンパク質の分泌輸送という基本的な生命現象をつかさどる装置の機能メカニズムを明らかとしました。本成果は、科学技術振興機構(JST) 基礎研究事業などの一環として、濡木理(東京大学医科学研究所 教授)、塚崎智也(東京大学医科学研究所 特任研究員)、伊藤維昭(京都大学ウイルス研究所 名誉教授)、森博幸(京都大学ウイルス研究所 准教授)、その他の共同研究により行われたもので、英国科学誌「Nature」オンライン版に英国時間10月15日午後6時に発表されます。

3.発表内容:
  タンパク質が生体内で適切に機能するためには、タンパク質の合成の場である細胞質から各細胞内小器官へと運ばれたり、細胞表面に分泌されたりする必要性があります。その過程において、多くのタンパク質は、生体膜を越えて輸送されていきます。生体膜は通常イオンなどの小分子すら透過させない性質(膜透過障壁)を保っていますが、生体膜には巨大なタンパク質を輸送するためにSec トランスロコンと呼ばれるタンパク質を膜透過させる為の孔が存在しています。Secトランスロコンは通常は閉じており(クローズド型)、タンパク質が膜透過するときのみ開きます。Sec トランスロコンを介したタンパク質の膜透過は、生物が生きていくために必須の機構であり、国内外で基礎研究が盛んに進められています。細菌においては膜タンパク質 SecYE 複合体がSecトランスロコンを形成し、モータタンパク質であるSecA ATPaseがSecYと相互作用して膜透過反応を起こすことが知られていますが、その詳細なメカニズムは不明のままとなっていました。
  本研究では、高度好熱菌由来 SecYE 複合体の立体構造をX線結晶構造解析(注1)によって決定し(図1)、その構造をもとに機能解析を進めました。その結果、Sec トランスロコンはタンパク質の膜透過にともなって少なくとも2つの状態(プレオープン型とクローズド型)(図2)をとることが明らかとなりました。プレオープン型ではクローズド型と異なり、細胞質側の矢印で示した部位に疎水性の凹みが存在し、膜透過するタンパク質との相互作用部位を形成していると考えられます。
  さらに我々はSecAとの相互作用の研究を進めた結果、SecYとSecAとの特異的相互作用部位を同定し、 SecAとの相互作用によりSecYがクローズド型からプレオープン型へ構造が変化することを示しました。一方、SecAもSecYとの相互作用によってSecAの内部にあるIRA1とNBF1という領域の間が広がる構造転移を起こすことを突き止めました(図3)。ここに示した構造変化によってSecYE、SecAが共に活性化状態となり、タンパク質の膜透過反応を開始するとのモデルを提唱しました。本研究結果は、世界的に活発に研究が進められているタンパク質の細胞内での動きや配置などの研究分野に大きな影響を与えることとなりました。今後、さらなる構造解析、生化学的解析によって近い将来タンパク質膜透過機構の全容が明らかとなると期待されます。

4.発表雑誌:
「Conformational transition of Sec machinery inferred from bacterial SecYE structures」
  (細菌型SecYEの構造から推論されたSec 装置の構造転移)
英国科学誌「Nature」オンライン版に英国時間10月15日午後6時に公開

5.注意事項:
解禁時間:日本時間10月16日(木)午前2時
新聞は日本時間10月16日(木)付け朝刊

6.問い合わせ先:
〒108-8639 東京都港区白金台 4-6-1
東京大学 医科学研究所 染色体制御分野
教授 濡木理

7.用語解説:
  (注1)X線結晶構造解析:タンパク質などの生体高分子化合物の結晶を調整し、その結晶に対しX線を照射することで、立体構造を決定する手法。


8.添付資料:

図1 SecYE タンパク質の構造モデル

図1


 

 

 

 

 

 SecY は、赤と青で示した10回の膜貫通領域(TM1-TM10)を持っていて、内部にはタンパク質の透過孔が存在しています。この透過孔は通常、黄色で示したプラグによって閉ざされています。細胞内から細胞外へとタンパク質の膜を越えての輸送が起こるときには、細胞内の突出した領域に SecA が相互作用した後、プラグが外れ SecY の透過孔が大きくなります。SecE は1回の膜貫通タンパク質で SecY の構造を鎹のように支えています。

図2 Sec トランスロコンのプレオープン型とクローズド型

図2

 

 

 

 


 

 プレオープン型とクローズド型の Sec トランスロコンのタンパク質の表面を示しました。膜貫通領域をそれぞれ色分けして表示し、膜貫通領域の番号を表記しました。プレオープン型では2(青色)と8(橙色)で表される領域が大きく開き、疎水性の凹みが形成されていることが分かります。


図3 SecYE と SecA間の相互作用モデル

図3

 

 

 

 

 


 

 

 

SecA は4つの領域(NBF1、 NBF2、 IRA1、 PPXD)からなります。SecA がSecYE 複合体と相互作用すると、矢印のように SecA、 SecYE ともに構造変化が起こり活性化された後、膜を透過する基質タンパク質(preprotein)がSecA からSecYE の疎水性の凹みに受け渡されタンパク質の膜透過が開始するモデルを提唱しました。

 

<図をダウンロードするためのURL>
http://www.nurekilab.net/tmp/Nature20081016tsukazakietal.pdf

 

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