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金触媒の秘密を解明-究極の電子顕微鏡技術で原子の配列を明らかに-研究成果

金触媒の秘密を解明-究極の電子顕微鏡技術で原子の配列を明らかに-

【発表概要】
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 柴田直哉 助教(独立行政法人科学技術振興機構(以下、JST)さきがけ研究員)・幾原雄一 教授(財団法人ファインセラミックスセンターナノ構造研究所、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR))らの研究グループは、京都大学大学院工学研究科 松永克志 准教授と共同で、酸化物結晶に吸着した金ナノ粒子の原子構造観察に成功し、金ナノ粒子が酸化物からの強い束縛を受けて通常の金とは異なる原子構造を形成することを明らかにしました。本結果は、金ナノ粒子がバルク状態とは正反対の高い触媒活性を示す起源を解明する上で有力な手掛かりになると考えられます。
本研究の成果は2009年4月3日発行の米国物理科学専門誌「Physical Review Letters」オンライン版で公開されました。なお、4月10日発行の印刷版の同誌にも掲載されます。

【発表内容】
金は古くから宝飾品、貨幣などの用途に用いられ、貴重な金属として重宝されてきました。これは金が極めて反応性に乏しい物質であり、腐食されにくいことに由来します。一方、金のサイズをナノスケールにまで小さくし、酸化チタンなどの酸化物の表面に担持させると、通常の金とは正反対の高い触媒活性を示すことが知られています。もともと反応性に乏しい金が何故ナノサイズになるとその性質を180度変化させるのかを理解するためには、金と酸化物とのナノ界面でどのような現象が起こっているのかを明らかにすることが重要であると考えられています。
今回、東京大学の柴田直哉助教、幾原雄一教授らのグループは京都大学の松永克志准教授と共同で、金ナノ粒子が酸化チタンと界面を形成する過程で強い束縛を受け、原子構造を変化させる様子を観察することに成功しました。最先端の原子直視型電子顕微鏡を用いることにより、金のサイズが3nm以下になると金の原子構造は酸化チタンの原子構造に合致するように原子の配置、結合距離、角度などを大きく変化させることがわかりました。また理論シミュレーションの結果、この構造は通常の金とは異なる電子構造を形成することが予測されました。これらの結果は、ナノサイズの金が、我々が良く知る金とは全く異なる性質を示すことを示唆しており、金ナノ粒子の高い触媒活性の起源を解明し、応用する上で有力な手掛かりになると考えられます。
本研究の一部は、JST構戦略的創造研究推進事業個人型研究さきがけ「界面の構造と制御」(研究総括:東京大学大学院新領域創成科学研究科 川合眞紀教授)及び文部科学省特定領域研究「機能元素のナノ材料科学」(領域代表者:東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 幾原雄一教授)の支援により行われました。

【発表雑誌】
Physical Review Letters、4月3日号 (オンライン版)
Physical Review Letters、4月10日号(印刷版)

【問い合わせ先】
柴田 直哉(シバタ ナオヤ)助教
幾原 雄一(イクハラ ユウイチ)教授
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 

【用語解説】
金ナノ粒子
金を小さくし、直径をナノサイズにした粒子。これを酸化チタンなどの特定の担持材に載せると高い触媒機能を示す。金ナノ粒子の高い触媒活性は、首都大学東京の春田正毅教授らによって発見された。これらの発見から、金はナノサイズになると通常の塊の状態とは異なる性質を示すと考えられている。

触媒
化学反応に際し、それ自身は反応の前後で変化しないが、化学反応の反応速度を変化させる物質。

酸化チタン(TiO2)
光触媒、触媒担体、センサー、電子部品、顔料等さまざまな用途に用いられる機能材料。近年、環境材料としても注目されている。

原子直視型透過電子顕微鏡
加速した電子を試料に透過させることにより、試料の原子構造を直接観察する顕微鏡。1オングストローム以下程度まで細く収束させた電子線を試料上で走査し、試料により透過散乱された電子線の強度で、試料中の原子位置を直接観察する走査透過型電子顕微鏡などがある。

 

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