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病原細菌が腸管感染を拡大する巧妙な戦術を発見:多くの腸管病原細菌に対する抗菌薬開発に期待研究成果

病原細菌が腸管感染を拡大する巧妙な戦術を発見:多くの腸管病原細菌に対する抗菌薬開発に期待

「病原細菌が腸管感染を拡大する巧妙な戦術を発見:多くの腸管病原細菌に対する抗菌薬開発に期待」

1.発表概要:
  我々の腸管は病原細菌が感染するとその細胞を素早く除去することにより感染を防いでいる。しかし、赤痢菌、0157、サルモネラ菌等は、自ら細胞除去を阻止して腸管での感染を拡大している巧妙なシステムを有することを発見した。

2.発表内容:
  東京大学医科学研究所は、赤痢菌、O157、サルモネラ等の病原細菌が、腸管での感染を拡大するために、感染した腸上皮細胞が腸管壁から剥離することを阻止していることを発見しました。
  腸管の壁を覆う上皮細胞は、消化された食物や腸内に共存する無数の細菌に曝されています。この腸管の上皮細胞に、外界から侵入した病原細菌が感染すると、感染した細胞を除去してその間隙を素早く修復します。これにより、感染した病原体の腸管への定着を未然に防ぐことができます。即ち、腸管が感染した上皮細胞を除去することは、「病原体に対する基本的な生体防御システム」として重要です。
  本研究では赤痢菌をはじめとする腸管系病原細菌が、このような防御システムに対抗して腸管での感染を拡大するために巧みな戦術を駆使していることを発見しました。赤痢菌は腸の上皮細胞内へ侵入すると、細胞の中でOspEタンパク質を分泌します。OspEは、腸管壁へ上皮細胞が接着することを制御している宿主細胞のインテグリンリンクドキナーゼと結合して、上皮細胞の腸管壁への接着を増強して感染細胞が剥離され除去されることを抑制します。その結果、赤痢菌は周囲の細胞へ感染を拡大することを可能にしていることを明らかにしました。
  赤痢菌のみならずO157やサルモネラ属菌等の病原細菌もOspEを保有しており、いずれも上皮細胞へ分泌されたOspEは、細胞内でインテグリンリンクドキナーゼと結合して、感染細胞が腸管壁から除去されることを阻止しています。本研究ではこれら多くの病原細菌が、腸管での感染を成立させるために、感染の足場となる上皮細胞が腸管壁から除去されることを阻止するための因子を分泌しているという、極めて高度に進化した感染戦略を共有していることを明らかにしました。本成果は、OspEタンパク質のインテグリンリンクドキナーゼへの結合部位を標的とする薬剤が治療薬として有効であることを示唆しています。
  本成果は、笹川千尋教授(東京大学医科学研究所感染免疫部門、附属感染症国際研究センター)ならびに金?秀特任助教(東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センター)が、ファスラー教授(Dr. Reinhard Fassler)(ドイツマックスプランク研究所)との共同研究で行なったものです。

4.発表雑誌:
「Nature」、2009年5月6日(英国時間18:00)のオンライン版に掲載
“Bacteria hijack integrin-linked kinase to stabilize focal adhesions and block cell detachment”
Minsoo Kim, Michinaga Ogawa, Yukihiro Fujita, Yuko Yoshikawa, Takeshi Nagai, Tomohiro Koyama, Shinya Nagai, Anika Lange, Reinhard Fassler & Chihiro Sasakawa

5.注意事項:
プレスリリース解禁時間がイギリス・ロンドン(標準)時間5月6日18時解禁となっており、日本時間では5月7日午前2時(新聞は5月7日朝刊)になります。

6.問い合わせ先:
笹川千尋
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 細菌感染分野 教授

7.詳細資料及び用語解説:
別紙参照

 

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