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がん抑制遺伝子の新たな機能を発見 ―p53によるマイクロRNAプロセッシングの制御研究成果

がん抑制遺伝子の新たな機能を発見 ―p53によるマイクロRNAプロセッシングの制御

1.タイトル:
「がん抑制遺伝子の新たな機能を発見 ―p53によるマイクロRNAプロセッシングの制御」

2.発表概要:
東京大学大学院医学系研究科分子病理学のグループ(宮園浩平教授、鈴木 洋氏(博士課程))は、代表的ながん抑制遺伝子であるp53が、細胞内の遺伝子発現制御において重要な役割を持つマイクロRNA(microRNA)の生成過程を制御することを発見し、英科学誌Natureに発表しました。

3.発表内容:
  我々の体を構成する細胞群は、同じゲノムを有しながら、細胞の種類や細胞のおかれた状況によって異なる種類のタンパク質を様々に組み合わせて発現させることで、特徴的な機能を発揮しています。近年、タンパク質をコードする遺伝子以外のゲノム領域から、タンパク質をコードしない数多くのRNA (non-cording RNA)がつくられ、タンパク質の発現の調節など様々な機能を果たしていることが分かってきました。
  マイクロRNA(microRNA)(注1)は二十数塩基からなるnon-cording RNAの1種として知られ、他の遺伝子の発現を調節する機能をもつことが確認されています。microRNAの機能は細胞増殖・分化やアポトーシス、発生など多岐にわたることが知られており、microRNAの発現異常はがんなどの疾患にも関わっていることが明らかとなっています。
  では、このmicroRNAは細胞の中でどのように作られるのでしょうか?microRNAは細胞の中で、ゲノムから転写産物(microRNA前駆体)として作られた後、核内と細胞質内で、Drosha(注2)とDicerという2つの「はさみ」に相当する酵素によってそれぞれ切断されることで、成熟型のmicroRNAとなり機能することが知られています。これらの過程を「プロセッシング」と総称しますが、最近の研究により、microRNAのプロセッシングの異常が、がんの進展に関わっている可能性が示唆されています。しかし、一方で、この過程が細胞内でどのように調節されているのかについては、不明な点が多いのが現状です。
  今回、我々は、ヒトの多くのがんでその異常が認められ、代表的ながん抑制遺伝子であるp53が、microRNAの生成過程を直接制御することを見出しました。p53は、抗がん剤などによって細胞のDNAが損傷を受けると活性化し、転写因子として、細胞周期やアポトーシスを調節する遺伝子群を誘導することにより、細胞周期の停止やアポトーシスを誘導します。本研究では、DNAの損傷に反応して、p53が、上記の遺伝子群の転写誘導と平行して、いくつかのmicroRNAのプロセッシング効率を上昇させ、成熟型のmicroRNAを誘導することを見出しました。成熟型microRNAを産生する上で重要な「はさみ」に相当するタンパク質複合体(Drosha複合体)を詳細に調べたところ、p53が、Drosha複合体を構成する因子であるDEAD-box型RNAヘリケースp68、p72とともに、Drosha複合体と相互作用することが分かりました。さらに詳しく検討した結果、p53が、Drosha複合体と相互作用し、細胞内および試験管内の両方で、Drosha複合体によるmicroRNA前駆体の切断を亢進させることが明らかになりました。
  また、ヒトの多くのがんでは、p53に遺伝子変異が起きることにより、p53のがん抑制機能が失われます。遺伝子変異が起きたp53(変異型p53)は細胞内で蓄積し、野生型のp53の機能を抑制しますが、一部の変異型p53には加えてがんを促進させる機能がある可能性も示唆されています。今回の研究では、野生型のp53とは逆に、変異型p53がいくつかのmicroRNAのプロセッシングを抑制することも分かりました。
  これらの知見により、microRNAの生成過程ががん抑制遺伝子p53によって巧妙に制御されていることが明らかになるとともに、代表的ながん抑制遺伝子であるp53の新しい機能が浮き彫りになりました。p53やmicroRNAをどのようにがんで制御しうるか、それはがんの生物学が、がんの治療・診断に役立つべく脱皮していく過程で1つの鍵となる問いであり、今回の知見はその問いに新たな視点を提供するものです。本研究の成果は、microRNAによる細胞内の複雑な遺伝子発現制御機構とがんの生物学的分子基盤の双方を理解していく上で、重要な足がかりになると期待されます。

 なお、本研究は東京大学大学院医学系研究科と分子細胞生物学研究所、順天堂大学、中部大学との共同研究により行われました。また、本研究は文部科学省の科学研究費補助金、グローバルCOEプログラムなどの支援を受けて行われました。


4.発表雑誌:
Nature 7月23日号
論文タイトル: “Modulation of microRNA processing by p53”
著者: 鈴木洋、山形薫、杉本耕一、岩本隆司、加藤茂明、宮園浩平

5.注意事項:
報道解禁は日本時間7月23日午前2時となります。
この時間以前には報道しないようご注意下さい。

6.問い合わせ先:
東京大学 大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 分子病理学講座
教授 宮園 浩平
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1

7.用語解説:
注1)マイクロRNA (microRNA)
マイクロRNA(microRNA)は二十数塩基からなる1本鎖RNAであり、タンパク質をコードしないnon-cording RNAの1種として知られています。microRNAの主な機能は遺伝子発現の抑制にあると考えられています。microRNA は、相補的な配列を持った一部のmRNAと相互作用し、タンパク質の産生やmRNAの分解などを誘導すると考えられています。
注2)Drosha
microRNAは、ゲノムから転写産物(microRNA前駆体)として作られた後、核内と細胞質内で、DroshaとDicerという2つの「はさみ」に相当する酵素によってそれぞれ切断されることで、成熟型microRNAへと作られます。Droshaは、DGCR8、DEAD-box型RNAヘリケースp68、p72などの他の分子とともにタンパク質複合体を形成し、核内でmicroRNA前駆体を切断します。


8.添付資料:
図1
図:p53によるmicroRNAプロセッシングの制御(模式図)

 

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