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病原細菌の巧妙なオートファジー回避機構の発見研究成果

病原細菌の巧妙なオートファジー回避機構の発見

病原細菌の巧妙なオートファジー回避機構の発見

発表概要:
  オートファジーは細胞内不要物や病原体を認識して分解する重要な防御システムである。宿主細胞へ侵入するリステリア・モノサイトゲネスは、宿主タンパク質を菌体表面に結合して異物であることを擬装する。その結果、菌はオートファジーによる監視システムをすり抜けて感染を拡大していることを発見した。

発表内容:
  東京大学医科学研究所は、細胞内寄生菌の一つであるリステリア・モノサイトゲネス(リステリア)が感染の過程で巧みな戦術を駆使してオートファジーを回避していることを発見しました。
  オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質や老朽化した小器官を分解するとともに、変性タンパク質や細胞内へ侵入した病原体を異物として認識・分解する重要な浄化システムです。したがって、オートファジーの機能異常は、不要物の蓄積により細胞の恒常性維持、細胞寿命、発生・分化など多岐に影響し、さまざまな変性性疾患の一因となります。
  免疫力の低下した患者、高齢者および妊婦に感染すると致命率の高いリステリア症(全身性感染症の一つ)を起こすリステリアは、宿主細胞内へ侵入し細胞内で活発に増殖・運動して周囲の細胞へ感染をさらに拡大します。細胞内へ侵入したリステリアはActAタンパク質をその表面に発現し、これが宿主細胞のArp2/3タンパク質複合体(注1)およびVASPタンパク質(注2)と結合して菌体の一極にアクチン重合を誘導します。ActAタンパク質によるアクチン重合を繰り返すことで菌はその反動を利用して細胞内を運動し、さらに細胞から細胞へと感染を拡大します。我々は、リステリアのオートファジーの回避メカニズムを詳しく調べた結果、本菌のオートファジーの回避は、菌の細胞内運動性には依存せず、むしろ菌の表面を覆っているActAタンパク質が宿主のArp2/3タンパク質複合体とVASPタンパク質と結合し、それらが(いずれか一つでも十分)菌体表面へ繋留することが、オートファジーの認識を免れるために必須であることを突き止めました。即ち、菌体の表面が宿主タンパク質で覆われることにより、外来から侵入した菌でありながら、あたかも宿主細胞内でその一部のごとく擬装することにより、オートファジーによる異物認識を免れていることを明らかにしました。これら宿主タンパク質と結合できない欠陥ActAタンパク質を発現するリステリアは、細胞内で変性タンパク質凝集体と同様、ユビキチン化(注3)されオートファジーにより処理されました。本研究から、リステリアは宿主細胞内で異物であることを巧妙に偽装して、オートファジーによる異物処理システムをすり抜け、感染を持続する、極めて高度に進化した病原体であることが明らかとなりました。本成果は、オートファジーに関連するさまざまな変性性疾患の解明とともに、結核菌などの病原細菌のオートファジー回避機構の解明にも重要な手がかりを与えると示唆されます。
  本成果は、笹川千尋教授(東京大学医科学研究所感染免疫部門、感染症国際研究センター)ならびに吉川悠子研究員(東京大学医科学研究所感染免疫部門)が、チャクラバティー教授(Dr. Trinad Chakraborty)(独Justus-Liebig University Gissen)との共同研究で行なったものです。

発表雑誌:
「Nature Cell Biology」
2009年9月13日(英国時間18:00)のオンライン版に掲載
“Listeria monocytogenes ActA-mediated escape from autophagic recognition.”
Yuko Yoshikawa, Michinaga Ogawa, Torsten Hain, Mitsutaka Yoshida, Makoto Fukumatsu, Minsoo Kim, Hitomi Mimuro, Ichiro Nakagawa, Toru Yanagawa, Tetsuro Ishii, Akira Kakizuka, Elizabeth Sztul, Trinad Chakraborty, and Chihiro Sasakawa.

注意事項:
  プレスリリース解禁時間がイギリス・ロンドン(標準)時間9月13日18時となっており、日本時間では9月14日午前2時(新聞は9月14日朝刊)になります。

問い合わせ先:
笹川千尋 教授
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 細菌感染分野 

用語解説:
(注1) Arp2/3タンパク質複合体:
Arp2、Arp3およびp21arcを含む7つのサブユニットからなるタンパク質複合体。アクチンの重合を促進し、アクチンフィラメントの伸長を強力に誘導する。

(注2) VASPタンパク質:
Arp2/3タンパク質複合体とは異なり、アクチン重合には直接必要ではないが、アクチン重合の効率を促進する4量体タンパク質。

(注3) ユビキチン化:
異常なタンパク質や不要になったタンパク質などの標的タンパク質にユビキチンを修飾すること。この反応はユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、さらにユビキチン転移酵素(ユビキチンリガーゼ)(E3) によって行われる。
 
添付資料:
図

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